ずっと伸ばしていた髪をバッサリ切ったことがある。

私にはコンプレックスが多くて、ぱっちり二重でもないし、背も高く、私が目指す愛される可愛くて華奢な女子ではないので、髪はロングヘアにして、せめてもの女子力を保つことが必要だと思っていた。
少しでも可愛いに近づくために、ふんわりした印象にするために、毛先を32mmのコテで巻く黒髪スタイルを何年も貫いていた。

そしてロングヘアを続けた何より一番大きな理由は、好きな人が、私の髪をいつも褒めてくれたから。ばかみたいかもしれないけれど当時の私はロングヘアがお守りのようだった。

この人のためにロングヘアでいたわたしって……?

そんな髪を切ったのは、本当ありきたりで嫌になるけど、好きな人の事を忘れたかったから。ずるずるこの関係を続けたって前向きな未来はもう来ないから。
髪を切って、うだうだ考えてしまう後ろ向きな自分を変えたかった。

新しくなった私で、今日こそは言いたい事を言おう。
さよならを言おう。私は意気込んで彼に会いに行った。

ところがそんな意気込みも会ってそうそうに砕け散るのだった。
会うやいなや彼は私の髪を見て驚き、髪を触った。何度も褒められ、私は嬉しくて胸がいっぱいになってしまい、いつものようにへらへらと笑う。
ああ、こんなの全然やめれそうにない。

褒められて喜ぶ一方で、この人のためにロングヘアでいたわたしって……?と悲しくもなった。
ロングヘアは絶対的なお守りでもないし、ショートヘアは未練を捨てる魔法でもなかった。

もっと自分を尊重してもいいのかもしれない

あれからしばらくして、好きだった彼とは結局上手くはいかずお別れをした。
好きな人がいないと寂しいけれど、これが自分を深く見つめる時間にもなり、自分が必要だとしがみついていたものを一旦0にする作業をすることにした。
気づかないうちに誰かに良く思われたくて選んでいたものも多かった。

願掛けのように塗っていたピンクのネイルは私の手には馴染んでいないし、とにかく女性らしい香りをと思って買った数々の香水はくどすぎた。

それはそれで頑張っていた私の証拠だけれど、誰かににジャッジを委ねるんではなくて、今はもっと自分を尊重してもいいのかもしれない。

日常に馴染みやすく気分も落ち着くベージュのネイルに。
いつかお店で見つけて気になった紅茶の香りの香水もまた探しに行こう。

今は自分の為に大好きなロングヘアを選ぶ

こうして洋服、ヘアスタイル、メイク、全てが自分基準で心地良く過ごせるものを選ぶようになった。
こうではいけないとしがみつく意地やこうならなきゃという思い込みじゃない、ただただ自分が自分で居られる好きなものを。無理せず自分が自分で居られるものを纏うと風通しも良くなるし空気がおいしくなる。心も体もとっても軽い。

私は艶のある、毛先の揃った長い髪が好きなんだとも分かった。あの頃必死に守っていたそれとはまるで違う。

今は自分の為に大好きなロングヘアを選ぶ。もうお守りや魔法にすがりつかなくていい。
心地良さを知る大人になれたのだから。

私が好きな心地良い私でまた誰かと出会える日を、楽しみにしている。