自己嫌悪の強かった学生時代。幸せになることも、人を幸せにすることも出来なかった。
月日は経ち、私は変わった。何年もの後悔を、そろそろ手放そうと思う。
これは最初で最後の、あの人への手紙。

優しいあなたが好きで、偶然を装い手に触れたこと。今でも覚えている。

拝啓

時下ますますご健勝のことと、お慶び申し上げます。

お元気ですか?堅苦しい挨拶を覚えるほど、いつの間にか「大人」と呼ばれる歳になってしまいましたね。

さて、突然の手紙で驚かれたと思います。
私も何をしているのかと正気にならないよう、一気に書き上げるつもりです。
実は子供の頃のことをずっと謝りたいと思っていました。

小学生の時に始めた習い事で知り合った私たち。会うのはたったの週に1回でした。
けれども次第に話をするようになり、お互いに惹かれ合った。
私は、優しくてかっこいいあなたのことが好きでした。一緒にいて話していて、とても楽しかった。

たまに名前で呼んでみたり、お互いに偶然を装い、手に触ったのを覚えています。
その度に私は身体中が火照る思いでした。

互いの気持ちを確認するだけで満足で、関係が変わるのが怖かった

中学の時、あなたは私に告白してくれました。私が言わせたようなものですが、あなたは正直で誠実だった。

晴れて両思いだと分かったのだから、普通ならふたりは幸せになるはずでした。
でも私はとても精神的にとても幼く、自尊心もなかった。私は他の女の子のように可愛くない自分が嫌いでした。
何年も経って気付いたのですが「こんな私を好きだなんて、ありえない」と、あなたの気持ちを疑っていたのだと思います。

それに、付き合い方も分からず、わざわざ時間を作って会うことや、毎日送られてくるあなたのメールに戸惑いました。好きだという気持ちが分かった、それだけで良かったのに、ふたりの関係は明らかに変わってしまった。それが怖かった。

結果、私は自分に対する嫌悪感をあなたに転嫁し、あなたのことを嫌いました。私はあなたを急に突き放すような冷たい態度をとった。最低でした。

それでも、私は本心ではあなたのことが好きでした。
ずっとちゃんと謝りたいと思っていました。

付き合っていた期間はほんの僅かで、学校の違う私たちは完全に疎遠になりました。
また何年か経ち、大学で県外に進学した私は、成人式を待ち望んでいました。再び会えることを期待したから。また話したいと思っていました。
当日はあなたから声をかけてくれました。
嬉しかった。

後日、私の住んでる京都にきてくれましたね。
あなたのことがまだ好きだったから呼びました。もしかしたらやり直せるかもしれないと、期待していました。

実際は、来てくれて嬉しい反面、どうやってもてなせばいいかも分からなかった。
けれども不器用で段取りが悪い私と、あなたは楽しそうに歩いてくれた。ずっと喋ることができて楽しかったです。

帰り際、「帰らないで、今も好きです」と抱きしめる代わりに、「また会おう」と握手をしました。
本当に、また会いたいと思ったから。

私は誰よりもあなたの幸せを願っている、はずだから

さらに月日は経ち、SNSであなたに彼女がいると分かって辛かったです。
私には傷つく資格もなく、誰よりもあなたの幸せを願っていたはずでした。
けれども感情は正直でした。
こうやって今後も時々思い出して辛くなるのだろう、そんな将来を想像し、私は自ら連絡手段を断ちました。
もしかしたら、いつだったか連絡をくれたかもしれないですね。
だとしたら私はあなたを、本当に、どれだけ傷つけたら気が済むのでしょう。

今更ですが、あなたと過ごした幼少期は本当に楽しかった。気の合うあなたと笑い合い、一緒にいて幸せでした。
そんな関係を終わらせてしまったこと、そして何より、優しいあなたをたくさん傷つけたことを後悔しています。

私は社会人になって、あなた以来、初めて“ちゃんと”彼氏ができました。
今度誰かが私を好きだと言ってくれたら「ありがとう」と言って受け入れよう。
そう決めていたからです。
もう誰も傷つけたくないと思いました。


私はいま幸せです。
あなたも幸せでありますように。
ありがとう。


敬具