自家製サングリアが一押しのこじんまりとした居酒屋に、高めの声たちが響く。
大学時代の友人たち4人での集まりは定例会になっていて、何でもない日に動くグループラインで声を掛け合ってゆるく集まる。
私は普段着ない白いタイトスカートに、ヒール高めのショートブーツを身につけて彼女らの輪に入った。
止まることなく流れる会話にそって、コロコロと変わる表情。
釣られて、きらきらと大ぶりのイヤリングがみんなの耳元で揺れる。
随分と垢抜けたものだ。彼女らも私も。昔はスウェットで夜中の大学で徹夜していたのに、そんな面影はどこにもない。

始まった。毎回恒例の、やつ。近況報告とかこつけた探り合い。

楽しい。社会人になり普段とは違うコミュニティに属する友人たちと会うのは。
ただ一つ、苦手な話題を除いて。
「最近どうなの?」
「ほら、ストーリーに出てくる人、彼氏でしょ?」
始まった。毎回恒例の、やつ。
ドクンと心臓が1つ嫌な音を立てたのを、顔に出さぬようグラスに口つけた。
近況報告とかこつけた探り合い。

「彼氏何してる人なの?」
私はどうも、この手の会話が苦手らしい。
彼女らの頭の中が手に取るようにわかるのは、私も同じ女だからなのかもしれない。
わかるからこそはぐらかしたいが、長い付き合いの彼女らはそれを許さないし、私だって別にこの場を壊したいわけじゃない。
「へえ!独立ってすごいね。じゃあ数年後には玉の輿だ。いい男捕まえたね。」
別に、私は恋人を捕まえ身につけているわけじゃないよ。と喉までこみ上げてきては飲み込んだ。

女を評価するのに、周りにいる男性を使う? どうしても感じる違和感

ずっと疑問なのだ。女が女を測るときに、隣にいる男を引き合いに出すことが。
私だってだてに24年間も女をやってきたわけじゃない。
この場をどうやり過ごし、楽しむくらいの力は持っている。
それでも苦手なものは苦手で、少し呼吸が浅くなってしまう。
邪魔はしないが加勢もしない。それが私の逃げる道となっていた。

「こないだ合コンしたんだけどね、◯◯の人なの!ほら、大手の」
「◯◯ってめちゃくちゃ優良物件じゃん。さすがだね。」
「いや本当に羨ましい。」
女を評価するのに、周りにいる男性を使うのはそりゃ簡単でしょう。
1つの指標として、それは分かりやすいし話が広がるネタにもなる。
周りからどう見られるか、何で判断されるかは私が決められたモンじゃないから、仕方ないのかもしれない。
でも、どうしても違和感を感じてしまう。

「私の価値を私以外で計らないでよ。」

自分の身の回りにいる男性が魅力的であることが、自分自身の魅力になるわけではないのに、と。
まるでブランド物を身に付けるように男を纏い、自分のステータスとして見せているみたい。
隣にいる男性が稼げることが私の魅力ではない。
隣にいる男性がイケメンなのが貴女の魅力ではない。
自信のつけ方を間違っちゃいけない。
かっこいい男に愛されているから、私っていい女なんだ、なんて思うのは悲しいじゃないか。
男の隣にいる以外の貴女を教えて欲しいし、優秀な恋人がいる以外の私を知ってほしい。
私だけを見つめて、ああなんていい女なのだと、言えるようにならなくちゃ楽しくない。
他人に与えられる物で、自分の価値は上がらない。
例えば、勉強ができること。例えば、料理が上手なこと。人の話を聞くのがうまいこと。稼げること。
自分で身に付けた力にこそ、「いいね」を押して大切にしたい。

「今日も楽しかったね。ちょっと飲みすぎたみたい。」
「あー次までに良い男捕まえてやる。」
次は2ヶ月後くらい?と何となく決めて、惜しむことなく別れる帰り道。
外の空気に当たって伸びる背筋。モヤモヤはここに置いて帰ることにする。
いつか彼女らに言えるだろうか。言えないだろうな、大切だからこの関係性を失いたくなくて。
早速グループラインには先ほどの店で撮った写真が届いていて、それらを丁寧に保存する。

「私の価値を私以外で計らないでよ。」

ひとりの夜道に吐いた言葉はコツンと足元に転がり落ちた。
他人を気にせず生きていくことを、私はまだまだ出来そうにない。