もうすぐ30年近く連れ添ってきた愛しのまぶた様へ。そろそろ、ぱっちり二重を試みるのはやめてくださらないでしょうか。それも中途半端に、片目だけを二週間限定でぱっちりさせるキャンペーンなんて不定期開催するのは、控えていただけないものでしょうか。

恐れ多くもひとつだけ、まぶた様へのお願いがございます

拝啓 両目の上まぶた様

厳しい寒さが身に染みる折でございますが、貴殿におかれましてはお変わりなくご健勝のことと存じます。
筆不精のわたくしでございますが、まぶた様の昨今の輝かしきご活躍に際しまして、筆を執る次第です。
まぶた様は日頃、汗や土埃の侵入をまつげ様、まゆげ様などとご協力の上、防いでくださるほか、日差しの刺さるような夏の頃にはその光から、北風の吹き荒ぶ頃にはその空気の乾燥から、わたくしのデリケートな眼球を保護する勤めを果たされております。ご活躍をお喜び申し上げるとともに、重ねて御礼申し上げます。

また、まぶた様は容姿に資する分野に関しましても、大変なご活躍をしていらっしゃいます。
とりわけ、昨今は感染症流行の影響もございまして、マスクの着用が生活の一部となっておりますから、くちびる様のあざやかな口紅の塗られっぷりや、両頬様がほんのりとまとってくださっていたチークなど、とんと陽の目を見なくなりました。昨年の春に「新生活のスタートだもの、春らしく薄ピンク色のリップでも買ってみようかしら」なんて購入した、プチプラながらもお気に入りの一本は、ほとんど活躍の機会がないままに一年が経とうかという頃です。
このような折にまぶた様は、貴重な「他人の目に触れるパーツ」としてその才能を遺憾なく発揮されております。薄くてデリケートな皮膚まわりを、上品なラメ入りのアイシャドウや愛用のブラウンマスカラに提供し続けてくださいますこと、感謝の意に堪えません。
この上、さらにわたくしから何事かを申し上げるのは心苦しくもあり、厚かましいことと存じておりますが、恐れ多くもひとつだけ、まぶた様へのお願いがございます。

そろそろ、『二重まぶた』を試みるのを控えられてはいかがでしょうか。

毎日毎朝毎晩、鏡を見るうちにやがて、この『奥二重』に愛着が湧いた

勿論、ぱっちりくっきりとした二重まぶたに縁取られている大きな目が、非常に魅力的とはわたくしも理解しているつもりです。
生まれ育った実家にてソファに眠る弟の、くっきりした二重ラインとばさばさのまつ毛を見るたび、「なぜ、この泥だらけの野球少年と顔のパーツが逆ではなかったのか」と、口惜しく思った夜もございます。けれども所謂アイプチは面倒が勝り、整形とまで思い切ることもできず。女子高生から大学生、社会に出て化粧の必要に迫られたわたくしは、毎日毎朝毎晩、鏡を見るうちにやがて――この『奥二重』に愛着が湧いたのでございます。
元来、他人と同じモノは持ちたがらず、流行に容易には乗りたがらない、ひねくれ者のへそ曲がりとして生きてきたわたくしです。世の中のとても多くの人が二重まぶたを褒めそやす折、「それならぜったいに二重になどなるものか」と、半ば意固地になっているのも事実でございましょう。
しかし現に、わたくしは奥二重に対応した化粧品やメイク方法を(多少ではありますが)知り得ておりますし、「これが自分の顔なのだ」と受け入れてもおります。慣れ、と申しましょうか。むしろ今になって突然、ぱっちりくりくりの二重まぶたなんて与えられましても、きっと自分の顔とは認識できずにびっくりしてしまいます。

ですからぜひ、寝不足で顔が腫れぼったい日などにも、むやみやたらに、片目だけを二重になさらないでいただきたい。

腫れぼったさを理由に妙なところが引っかかった結果、二重まぶたになるのはお止めいただきたい。

二重まぶたをあきらめて、わたくしと共に歩んではいただけないでしょうか

うっかりと二重になってしまった際には、すみやかに、せめて一晩か二晩で元の奥二重に戻っていただきたいのです。なんの予告も用意もなく、突如として二週間の『二重キャンペーン期間』を設けられますと、わたくしも周囲の方々も戸惑いを隠せないのが実情です。
あるいはせめて、どうせだったら両目ともいっぺんにキャンペーン対象としていただきたい。片方だけ突然、それも不自然なほどにくっきりとした二重まぶたを与えられてしまっては、まるで「アイプチを失敗したみたいだな」とわたくしも、周囲の方々も、思ってしまうのは致し方のないことではありませんか。

わたくしの不摂生、寝不足やスマホの見過ぎ、目のこすりすぎなどに原因のあろうことは重々承知の上でございます。日夜働いてくださるまぶた様へ、この上さらなるご負担をおかけしておりますこと、二重キャンペーンのたびに反省しております。
わたくしと致しましても、メイク落としはなるべく軽い力で拭き取ること、洗顔時にごしごしとこすらないこと、可能な限りの保湿を行い、ときには目元用のパックやクリームを用いることなど、まぶた様のコンディションのために尽力させていただく所存です。
ですからどうか、大人しく二重まぶたをあきらめて、愛着ある奥二重として、わたくしと共に歩んではいただけないでしょうか。

これからベッドに入って眠り、明日の朝にわたくしが目覚めたとき、まぶた様からの色よい返事がいただけることを心待ちにしております。

敬具