コロナ離婚、コロナ破局。
2020年にテレビでよく聞いた言葉だ。
そんな言葉もあと数十年もしたら「ねえ、それってどんな意味?」と小さい子供に聞かれたりするんだろうか。
私はまさに、そのコロナ破局を体験した人間の一人である。
彼との出会いは2019年の冬。新型コロナウイルスが猛威を振るい始める数ヶ月前のことだった。友達からの勧めで街コンに初めて参加をし、そこで出会って付き合うことになった。
彼は消防士で、彼の親は教師。顔は地味だが身長は180cmを超えていた。私は彼の肩書きに安心し、条件で選んでいた部分があったのかもしれない。
待ち望んでいた、「彼氏とイチャイチャする時間」は…
彼氏ができること自体が久々であった私は、デートという響きにすら浮かれていた。
映画を見たりご飯を食べたり買い物に行ったり。
正直言って会話が楽しかったのかも、彼が私の話に興味を持ってくれていたのかも分からなかったがその時は雰囲気に酔っていた。
彼と私の家は離れていて電車で1時間半掛かった。それでも休みの日に泊まりに行くことは苦では無かった。泊まれば必ずセックスもしていた。けれど、男性と付き合うことが久々であった私が一番に求めていたことは、彼氏とイチャイチャする時間だった。甘い時間を長い時間待ってきたのだ。しかし、彼はそういうことに関して酷く色気の無い人だった。
彼の意見では、甘い時間は寝る前のベットの上でしか成立しないらしかった。外で手を繋ぎたいとも思わないし、家の中に居たとしてもベット以外の場所でイチャイチャする意味もよく分からないのだと。
そう言われると返す言葉も見つからず私が映画やドラマで憧れたような、長いこと待ち望んでいたカップルの甘い夢は儚く消えていった。
彼氏ができる前、私はハグに関してされるよりも自分がしたいと思える様な相手と付き合いたい、と強く思っていた。
確かに、彼はまさにそんな相手であった。彼からハグをしたことなど1度も無かった。そして私がハグをしたところで何のリアクションも無い人だった。この時はさすがに辛いものがあった。
なんて可愛げのない人間だろうかと思った。まだ付き合ってほんと数ヶ月だったのに。まるで自分を否定されているようで酷く傷ついた。
そして、やっぱり引き寄せの法則ってあるんだな、とその時思わず苦笑いをしてしまった。
コロナ禍での彼の発言。私の気持ちは急激に冷めていった
そんな中、新型コロナウイルスが本格的に日本で流行し始めた。都内に住む私は彼の家に行くまでに電車を3回乗り換えなければならなかった。それまでにどれだけの人と接触するのだろうかと考えると、リスクが高すぎると思った。彼の職業を考えると尚更だった。
万が一、彼が新型コロナウイルスに感染してしまったら、私のせいで感染させてしまったら、どれだけの人に迷惑を掛けてしまうだろうかと思うと、会わない選択しか私には無かった。
自分たちの我儘でどれだけの被害が出るのだろうと考えると怖かった。
しかし彼は違った。
「なんで? 別に大丈夫でしょ」
その時、彼への気持ちは急激に冷めていった。彼は私が大切ではないのだ。そして彼は周りの人間に対しても優しくないのだ。彼の想像力はあまりにも乏しすぎると思った。
この一言で話し合いをする時間すらも無駄になることが予想できてしまった。
彼を説得するほどの気力も湧かず、何より彼を完全に見下し始めている自分にも悲しくなった。
新型コロナウイルスによって世界中で多くの人が命を落とし、その家族は最後に会うことすらもできなかったというのに。
彼はその様な人たちの気持ちを考えたことがないのだろうか。自分が発症することで医療従事者にどれだけの負担をかけることになるのかが分からないのだろうか。
私は悲しかった。
あまりにも短い恋愛だった。笑ってしまうほどに
そしてこの件を通して、これから先も一緒に居たら沢山起こるであろう問題に対しても共に向き合いたいと思える気持ちは消えてしまった。
私は彼に別れを告げた。ただ「合わないと思うから別れよう」と。
あまりにも短い恋愛だった。笑ってしまうほどに。
ネットやテレビでは、長く連れ去った夫婦までもが新型コロナウイルスへの考え方や認識の違いによって離婚をしているというケースも見かけた。人は共に過ごした時間など関係なく、いかに分からないものであるかを痛感した。
私はこれから先、好きな人が現れた時に相性を判断する材料として「新型コロナウイルスが流行ってた時、どうしてた?」と聞いてしまうかもしれない。
コロナは自分が何を1番大切に考えて生きているのか、ということを知る機会であったと思う。
コロナによって知ることのできなかった部分を早く見ることができただけ、時間を無駄にしないで済んだ私はツイていたのかもしれない。