自分で選んで大学生になった。
けれど、時期が来ると否応なく就活生という枠組みに押し込められた。ご多分に漏れず、これがなかなかつらい。

留学から帰ってきて、就職活動を始めたら迷子になった

自分でいうのもなんだが、私はそれなりに有名な大学の在学生だ。
まあまあレベルの高いヨーロッパの大学へ留学し、英語で授業を受けた。大学に入ってからも、留学先でも、ちゃんと勉強してそれなりの成績を維持している。かといってかまぼこみたいに机にかじりついているだけではない。友達と遊んだり、サークル活動に精をだしたりもすれば、旅行をして見聞を広げたり、インターンシップをして「就労体験」を得てみたり、アルバイトをして「お金を稼ぐ」ことについて学んだりもする。
これだけ書くと、さぞかし意識高い系の学生のように見えるだろう。数年前まで私もそうありたいと思っていたし、そのための努力も惜しまなかった。

けれど、いざ、留学から帰ってきて、就職活動を始めて迷子になった。
やりがいのある仕事がしたいとか、広く社会に貢献できる仕事がしたいとか、有名になりたいとか、大金持ちになりたいとか、そんな願望は端からない。そういうと、きっととても怠惰でダメな学生だと思われるだろう。「どこにも拾ってもらえないよ」なんておせっかいを焼く人もいるかもしれない。

キギョウリネン、ジギョウ、…私はキギョウという大きな組織に圧倒された

選考説明会で、人事の方や社員さんが目を輝かせて語る、キギョウリネン、ジギョウ、求めるジンザイ像といったものは、どうもつかみどころがない。大きすぎて、実態の見えない怪物のようにも思える。日本とか、世界とか、社会とか、地球とか、到底私の手に負えない大きいものを負おうとしているキギョウという大きな組織に圧倒される日々。
キギョウとガクセイの茶番。なんでも質問してくださいね、という採用担当の声に、ありがとうございます、と笑顔で返し、今まででいちばんやりがいのあった仕事はなんですか、と尋ねる。ひとりひとりどこにやりがいを持つかなんて違うのに、そんなことを聞いてどうするんだろう。就活はお見合いですよ、マッチングですよ、ご縁ですよ、と就活エージェントは発信しているが、そんなことはない。こんなに上下関係のあるお見合いなんて、いつの時代の話だ。

互いを尊重しあえる社会のために。私は私の半径3メートルを守りたい

そんな中で、私が何とか見出した働く理由が、私の半径3メートルを守るため、だった。
私の半径3メートル。それは、家族と、仲のいい友達と、仲間。就職したら、たぶんここに職場が追加されるだろうし、結婚したらきっとそこにはパートナーが加わる。
けれど、それは日本とか世界とか地球とか、そんな大きなことではなくて、私の手が届く私の大切な場所。それを守るために、働きたい。

願わくば、そういう人たちが増えていけばいいと思っている。みんなが自分の周りの人たちを思いやって、半径3メートルを守るために働けば、互いを尊重しあえる社会がやってくるだろう。一人ぼっちとか、行き場がないとか、そんな悲しい人たちがいなくなる。仕事や人間関係に苦しむ人は減るだろうし、社員は自分の家族と向き合う余裕を得られるだろう。その家族は、学校で、地域社会で、自分の周りの人たちを大切にすることができるようになるだろう。
自分と、周りの人が居心地よく幸せに生きられるように働く。それが、私の働く意味だ。