私には織姫と彦星のような存在の“はとこ”がいた。
子どもの頃、毎年夏休みになると会える人。一年に一度。最初は何でこの人たちと遊ばないといけないのだと思っていたが、物心がついた時には夏休みがとても恋しく会いたい人になっていた。

普段私が住んでいるところはとても遠く、飛行機に乗らないと会えない距離に住んでいた。本州に住むはとこは夏休みがとても長いため、夏休みだけおばあちゃんに会いに私たちが住む地域に遊びに来る。兄、弟と妹の3兄弟と私と妹の5人で夏休みになるとプールに行って遊んでいた。最初はやんちゃな兄弟に振り回されて嫌気がさしていたが、関わっていくうちに優しい一面も見えてきた。私は3兄弟の中で一つ年上の兄(以下 信五くんとする)の存在が気になっていた。

どうしたら会えるのかを必死に考えた日々

私が小学3年生の時、みんなでプールに行った後に私の家に遊びに来た。そして、私と妹の部屋も覗いていくということになったので、部屋を綺麗に片づけてドキドキしながら待っていた。だが、部屋に来た信五くん達は私たちの部屋を見るや否や、「つまんない部屋」ふと一言い捨てて帰ってしまった。

私はとてもショックだったが、来年は絶対におもしろい部屋だと思わせようと色々アイデアを考えていた。考えに考えた末、部屋の窓に風船を貼るという作戦を立て、一年後、信五くん達が遊びに来る日を待っていた。しかし、それ以降信五くん兄弟が遊びに来ることはなかった。高学年になるに連れて色々と忙しくなり、遊びに来ることができなくなったと後から聞いた。

どうしたら信五くんに会えるのか必死に考え、信五くんのおばあちゃんやおじいちゃんが亡くなればお葬式で会えるのではないかという最低な思考すらしていたが、信五くんに会えることはなかった。

検索した彼の名前。10年ぶりの連絡は当時の好きを思い出させた

それから10年後、私は大学生になり、友達にFacebookを勧められた。この10年ずっと忘れることができず、毎年夏になると信五くんを待っていた私は、気付いたら信五くんの名前を検索していた。すると信五くんが出てきて、緊張しながらも“これしかない!”と思った私はダメ元で信五くんにメッセージを送った。最初は業者かと思ったといいながらも信五くんから返信がきたときには、にやけが止まらなかった。ずっと会いたかった人と連絡を取れていることが嬉しくて仕方がなかった。信五くんも私のことを覚えてくれており、毎日ラインをしたり電話をしたりした。

電話をした時に、「信五くんのことが好きだったこと」「つまらない部屋と言われた時から面白い部屋にしてずっと待っていたこと」を話した。
それに対して信五くんは、「俺も好きだったかもしれない」「今年の夏は会いに行くからデートしよう」と言ってくれた。また、「周りの人は、はとこ同士で付き合うとかおかしいっていう人もいるかもしれないけど、俺の友達でいとこ同士で付き合っている人もいるし、俺ははとこだからとか気にしない」と言ってくれた言葉がすごく嬉しかった。

なにより信五くんとのデートが楽しみで、新しくワンピースやバックを買い、一目惚れしてもらうように女子力を磨いていた。会う日まで恋人のように毎日連絡をして楽しんでいた。すでに私の頭の中はお花畑でるんるんだった。

待ちわびたデートを目前に私が咄嗟に言ってしまった一言

そんなある日、信五くんがアルバイト中に撮ったと言って写真を送ってくれた。大人になった信五くんの顔は前にも何枚か送ってくれていたので知っていたが、バイトの制服を見せてくれようと写真を送ってくれたのだ。信五くんが送ってくれた写真をみた瞬間、私は驚きを隠せず、言ってはいけない言葉を無意識に言っていた。
「え!待って!!!!高校の時に生理的に無理だった人にめちゃくちゃ似てるんだけど!」と。

信五くんは「そう?」と私の失礼極まりない失言に優しく答えてくれていたが、私は、
「いやほんとに似てる!やばい!!!!」と“生理的に無理な人に似てる”というワードを10回程連続で言ってしまった。
最初は優しく答えてくれていた信五くんも私がしつこいので呆れたようだった。後から失礼だったと気付き、謝りのラインをしてもブロックされたのか、それ以降信五くんから連絡が来ることは一切なかった。

傷つけてしまった10年も会えずの彦星に私から伝えたいこと

何でそんなに失礼なことを大好きな人に言ってしまったのか意味が分からない。散々自分の容姿を“生理的に無理”と言われたら誰だって嫌になることくらい分かるはずなのに、あの時の私はどうかしていた。せっかく10年越しに連絡することができて会うことも決まっていたのに、私が全てダメにしてしまった。大好きな信五くんを傷つけてしまうならこのまま再会しない方が良かったのに。

言い訳として、送ってくれた写真は本当に高校の時に生理的に無理な人に瓜二つだった。
顔が嫌いというよりも性格がとても悪く、高校時代にたくさん苦しめられた。私の中で思い出したくもなかった人が急に現れて動転したのだと思う。生理的に無理な人に顔が似ているからと言って信五くんが嫌いという訳では一切なかったのに、その時の自分の感情だけで信五くんに本当に失礼なことをしてしまった。

ブロックされていても親戚を辿れば信五くんにコンタクトを取ることもできるが、とてつもない失言をしてしまったので信五くんはもう二度と私とは関わりたくないだろうなと思い、いまだに謝れていない。
あれから8年経った今でも、ずっと反省をしており、機会があれば心から謝りたいと願っている。そんな日々を過ごしている今年、信五くんのお母さんから年賀状が届いた。
「今年、私もおばあちゃんになります」という一言を添えて。

結婚したのは信五くんかもしれないし、弟さんか妹さんかもしれない。
「信五くん。あの時は本当にごめんなさい。あれから何度も何度も反省をしました。もし、結婚したのが信五くんではないとしたらデートしてほしいです。そしてきちんと8年前のことについて謝らせて下さい。結婚していたとしたら、信五くんと奥さんとお子さんの幸せを心から願っています。本当に本当にごめんなさい。けれどこれだけは言わせてください。信五くんのことはずっと大好きでした。」