「別れよっか」

優柔不断で決断力が少し乏しい彼に変わって私が言った。あくまで彼の気持ちの代弁として。

共通の趣味なし。正反対な私たちだった

顔がキツく、初対面の人に怖がられがちな私。高校2年の春、同じクラスになった彼は私とは正反対の印象の持ち主だった。ごく稀にいる、顔から良い人感がふんだんに出ているタイプ。なろうとしてなれる訳ではないその雰囲気を持つ彼が羨ましいと思った。

そんな彼とは、月に1度行われる席替えで3回連続近くの席になった。人当たりの良い彼と仲良くなるのはとても容易いことで、自然と惹かれていった。4回目の席替えでは目が悪いということにして彼の近くの席に変えて貰った。今改めて書くと、青く若い自分が可愛らしく感じる。

好き嫌いがはっきりし、あまり他人の目線を気にしない私と、当たり障りなく色んな人と仲良くでき、人からどう見られているか気にしがちで流されやすい彼。海外旅行大好きな私とパスポートも持っていない彼。共通の趣味なし。正反対な私たちだった。

曖昧なことが嫌いな私は、夏休みに入る直前に告白した。とにかく、モヤモヤしたまま夏休みに入りたくなかったのだ。
「1日考える時間が欲しい、明日の放課後話そう」と言われた。
放課後彼と待ち合わせしていた場所に向かうと、「部活後まで待って欲しい」と言われた。私は約1日半ヘビの生殺し状態だったが、この話は後に2人の中で彼の優柔不断の代表エピソードとなった。

違う所に失望したくなくて目を背けた

その後の高校生活は、彼との思い出で埋め尽くされた。体育祭、文化祭、登下校からの寄り道。少女漫画で出てくるような出来事は全部制覇した。好きなカフェのメニューは、抹茶フラペチーノ、カレー屋さんでは納豆とオクラのネバネバカレー、何を食べるか迷ったらパスタ。少しずつ、“同じ”を増やしていった。ちなみに、余談だが顔も似てきていると同級生に言われた。

私たちは、共に大学に進学を目指した。受験期、私は持ち前の頑固さと即決力で早々に受験校を決め、彼にも受ける学校を伝えていた。一方、彼は第一志望校だけ教えてくれた。共に東京の大学だったので少し安心した。

しかし、センター試験が終了した数日後、「お前の彼氏、青森の大学受けることにしたんだってな」と、彼の友達に言われた。私は何も知らなかった。

すぐに彼の教室に行き話を聞くと「言おうと思っていたけど、言いづらかった」と彼は言った。私は、2人のこれからに関わることなのにすぐ言わない彼が理解出来なかった。が、分かろうとした。違う所に惹かれたのに、違う所に失望したくなくて目を背けた。

「別れよっか」それは彼が言って欲しかった言葉だと分かっていた

結局、彼は合格した東京の私立大学に進学をすることを私が勧めたため、青森の大学は受験しなかった。上京したての私たちは、2人で色々な場所に行った。私が行きたい、やりたいと言った場所に行くのが私達のデートの常だった。そして、段々と彼は、私の誘いを忙しいと断るようになった。不器用な彼のことだ、新しく始めたバイトに大学の課題に追われているのだろうと思い込んだ。

秋だった季節が冬に変わり、年も明けた。彼は、ずっと“忙しい”ままだった。

私も馬鹿ではない。彼が私に会わない答えを感じ取っていた。また、その答えを彼が私に伝えないことも、曖昧な事が嫌いな私が言ってくれることを待っていることも分かっていた。

「別れよっか」

そう言うと彼は気まずそうに「本当にごめん」と言った。奇しくも3年半付き合った甲斐あり、彼が言って欲しかった言葉を当てられた。

違うから好きだった、違うから憧れた、違うから理解出来なかった、違うから別れた。