あの日家に君を呼び出して、
「別れよっか」
と言ったのは私。後悔はしていないど、今にも泣きそうな顔をしている君に伝えるのがとても辛かったな。

わかりやすくずっと好きオーラ出されたら、悪い気はしないじゃん

 君との恋の始まりは月並みだけどサークルの新歓飲み会。君の名前なんて知らなかった。それは本当。だけど、全く意識してなかったといったら嘘になる。
 本当の恋の始まりは飲み会の前にあったサークルで、何かの譲り合いになって、私が譲ってどうぞと笑った瞬間、君は私がびっくりするくらいすごく笑顔になったんだよ。多分自覚ないよね。帰りの車の中で私の名前を聞いてきて、自分に言い聞かせるように何回も真面目な顔で小さく私の名前を言うものだから内心おかしくて笑いを堪えてたんだけど多分気づいてないんだろうね。その一回しか話したことないのに、新歓飲み会ではずっと私の横を占領して、眠かっただけなのに酔ってるんじゃないかってとっても心配してくれて、しまいには眠すぎて君の肩に寄っかかっちゃってごめんね。でもね、そんなにわかりやすくずっと好きオーラ出されたらこっちだって悪い気はしないじゃん。

 ラインでちょっとからかってみたらすぐに告白してくるし、待てのできないワンコみたいだったな。それから付き合うことになったんだよね。会った時は毎回ギュッとしてくるし、映画の中の夫婦をみて、「俺たちも将来あんな感じになるのかな笑」「俺からは振ることは絶対にないから」なんて言った君はとても幸せそうで、将来なんてまだ全然わかんないのに馬鹿馬鹿しいなと思いながら笑ってだんだよね。付き合ったのがとっても嬉しかったのか、すぐに友達に紹介してくるし、兄弟にも紹介するし、私は「いるよ」としか友達に言ってなかったのにな。

だんだん好きなところが増えていったんだよ。でも君はだんだんと…

 時々「俺にはもったいない」とも言って、自信無くすし、少し抜けてるけどちゃんとしようって礼儀だけはしっかりしているところとか、涙脆いから嬉しいとすぐ泣くところとか、だんだん好きなところが増えていったんだよ。

 けど、私はやっぱり自由でいたくて、夏休みなんて君を置いて一人旅に出ちゃうし、なんだか本当に今思うとダメな彼女だったよね。それでもずっと好きだって言ってくれてた君のことを多分段々と好きになって、一緒にいる時間がかけがえのないものになっていったから、君に会いたいなと思う日が増えて、でもその頃から君は段々そっけなくなっていったんだよね。

 好意が私から離れていく感覚がひしひしと伝わってくるのがとても辛くて、決定的なことは無かったけど、それでも一緒にいても笑わなくなる君を肌で感じて、君がいないときに一人で泣いてしまった時もあったんだよ。君は気づいてないだろうけど。傘を忘れたって口実で君の家に行って、「ギュッてしてほしい」と抱きついたけど君から手が伸びてくることはなくて、いつ別れを切り出されるんだろうとビクビクして帰ったっけな。けどそのあとしばらく経っても振ってはくれなくて、私から呼び出したんだ。

君の顔は泣きそうな顔をしてて、でも涙はひとつも出ていないの

 「別れよっか」「振ってください」

 そう言って涙が溢れてきて、止めようとしたけど止まらなかったの。だって好きだから。まだ好きだもん。でも、片方が好きでも意味がないことを知ってるから。君の顔を見ると泣きそうな顔をしてて、でも涙はひとつも出ていないの。長い沈黙が続いて、君が私を「振って」くれた。「君のことは嫌いじゃないけど、俺じゃない」らしい。別れる理由まで月並みで、きっと価値観の違いってやつなんだろうな。
 別れ際にキスをして、「友達に戻ろう」と言われたけど、今じゃ顔を合わせてもどっちも会釈するだけの仲。

 だけど、大好きだったよ。