「このままズルズルと付き合ってても時間の無駄だから、もう別れようか」
 彼から電話が来るなんて初めてだ。そう思いながら出たら、まさかの別れ話。
「そうだね、わかった。実は私、もう別れたいなって思ってたんだよね」
 そう返すしか言葉が見つからなかった。

付き合って2ヶ月頃の誕生日にネックレスをもらう。愛が重い

 彼とは、職場で出会った。会社は違うが同職種で、ほぼ毎日仕事で会っていた。背が高くて髪セットが上手くてイケメンに見えた。私の身近にもイケメンがいるんだ、なんて感動すら覚えたくらいだ。付き合い始めて1ヶ月もしないうちに見慣れてしまい、何とも思わなくなってしまったが。
 私が初めて「別れたい」と思ったのは付き合って2ヶ月の頃。彼は
「誕生日プレゼント、楽しみにしててね」
なんてすごく張り切っていたから、期待していた。
 誕生日当日。渡されたプレゼントを開けてみると、スイーツとネックレス。スイーツは人気店のものでお取り寄せしてくれたみたい。ネックレスは某通販会社のラッピングに包まれていた。
 「わぁ、ありがとう! ネックレス貰ったのは初めて!」
 彼にはそう伝えた。『嬉しい』という言葉は出てこなかった。嘘はつけなかった。
 付き合って二ヶ月なのにネックレスって愛が重い。愛の重さが違うな。合わない。もう別れたい。
 私の心の中には、それらの思いが渦巻いていた。

愛は重いのに、89%オフのネックレスをプレゼントする彼

 家に帰ってから親友に電話で伝えた。
「ネックレスは重いね...。値段いくらよ?」
 そう言われて調べると簡単に出てきた。89%オフになったネックレス。
 「プレゼントは気持ちが大切」
 そう頭では理解していても、恋人にセール品をプレゼントする心理が理解できなかった。
 お互い社会人なのにこんなことある? と少し苛立ちを覚えてしまったくらいだ。
 そこから彼に対する気持ちが冷めてしまい、彼と会う度に「愛が重いのに89%オフのネックレスをプレゼントする人間」と思ってしまうようになった。
 あまり自分からは連絡をしない私に、もっと連絡が取りたいと怒ってくる彼。
 デートにはほぼ毎回遅刻してくるところも、普段カラコンなんて気づきもしないのに、着色面積の大きなカラコンをした時だけ「今日カラコンでしょ?」と言ってくるところも嫌だった。
 化粧を変えたとか前髪を切ったとか私のことは何一つとして気づかないのに、自分が髪を切った時に指摘しないと「どうして気づかないんだ」と怒り出す。
 もう何もかもが面倒だと感じた。

「彼氏は精神安定剤」なんて聞いたけど、私には精神不安定の原因

彼のことは好きだった。それでも、これ以上は一緒にいられないと思った。
 親友は「彼氏は合法的な精神安定剤」と言っていたが、私からしたら彼氏は精神不安定の原因でしかなかった。
 それに気づいてからは連絡は全て無視。職場で会っても必要最低限の会話だけ。とにかくそっけなく、冷たくした。
 その甲斐あって、三ヶ月付き合って彼からの別れ話の電話だ。
 電話の後、
「別れても険悪になりたくないからご飯でも行こうね」
「連絡先はどうしますか? 気まずいなら消しておきます」
と連絡が来ていたけれど、どちらも既読すら付けずに無視した。
 ご飯なんて別れたのに行く訳ないでしょ。
 連絡先はどうするかなんて、そのくらい自分で判断しろよ、馬鹿。
 そう思いながら、彼の連絡先を削除した。
 職場で会った時、きっと少しは険悪になるのだろうな。それでも、彼のことで悩まなくて済むのなら私は今より元気になれるはずだ。
 次こそは絶対に良い人見つけるぞ、なんて心の中で叫んでみる。
 私は恋人なんていなくても、今日も明日も頑張ってみせる。