まるで自分が振られてるみたいな顔して、私を振った先輩

3つ年上の先輩。頭が良くて、ちょっと変わってて、何よりとっても優しい人だった。
変な人!って思ってたのに、気がついたら私から告白してた。

2月中旬。街中のカップルがバレンタインで浮ついてた時期。もれなく私も先輩が好きなウイスキーボンボン用意して、来る2月14日を心待ちにしていた。

そしてあの日、私は微熱があって早退した。次の日には先輩と2人でやらなきゃいけない仕事があった。そんな日に、終わりを提案された。

嫌いになったわけじゃない。俺が悪いの。
好きじゃなくなったとかじゃないよ。付き合うってこと自体に疲れたの。
だから、先輩と後輩に戻っていい?

1時間かけてドライブした後、自分が振られてるみたいな顔してそう聞いてきた。

先輩にとって私はもう大切な存在ではないこと、痛いほど伝わってきた

何その理由。嫌だと言っても考え直してくれないくせに。
体調不良の日にそんな話しないでよ。明日の仕事が終わってからにしてよ。
好きじゃなくなったわけじゃないなんて言葉、なんのフォローにもなってないよ。

思うことはたくさんあったけど、うん。しか言えなかった。
先輩にとって私がもう大切な存在ではないってこと、痛いほど伝わってきたから。
だから、先輩と後輩に戻ることを、許可した。最後、終わりを決めたのは、私。
不思議と、涙は出なかった。

許可した後、もう俺の事嫌いになる?って聞かれた。
なるって答えたら、とても悲しい顔された。
そんな顔するくらいなら別れないでよ。悲しいのはこっちだよ。
そういえば、最後まで「別れる」って言葉使わなかった。
特に意味にないのかもしれないけど。

優しい人じゃなくて、弱くてずるい人。先輩って最低だね

先輩って、優しい人じゃなくて弱い人だったんだね。はっきり切り捨てないのは優しさって言わないんだよ。ずるいって言うんだよ。最低だね。

これが友達から聞いた話だったら、何その男?卑怯すぎでしょ!別れて正解!振っといて、俺の事嫌いになる?とかキモすぎ!ありえないわ!くらい言ってただろうな。

でも私はそんな弱くてずるいところも含めて先輩が大好きだった。自分でもびっくりするくらい、先輩のことが好きで、先輩と過ごす時間が好きで、先輩といる未来を望んでいた。戸籍の苗字は先輩のでいいけど、仕事は旧姓で続けられないかな?なんて、1人で馬鹿みたいに未来を考えてた。
ほんと笑っちゃう。先輩が別れを考えてる頃、私は1人、結婚の妄想してたなんて。

だけど先輩と私はもう同じ未来に向かっていくことはできない。
そんな当たり前のことを認識した途端、涙が止まらなくなった。

今までの人生、私の事こんなに泣かせた人は他にいない

今までの人生、私の事こんなに泣かせた人、いないよ。ほんっとに、やっぱり最低な人だ。
こんな人、早く嫌いになって忘れてやろう。嫌いになられるのが嫌なら、早々に嫌ってやろう。心から大っ嫌いになってやる。それまではこんなにも先輩を好きになれた自分を褒めて生きていくことにしよう。だから、じゃあね、先輩。

そういえば、このウイスキーボンボン、美味しいですよ。しかもこれ、限定品なんですよ。これを食べられなかったなんて、馬鹿ですね、先輩。