大学時代3年間付き合った彼氏と、卒業式前日に別れた。彼は2学年上の社会人で、卒業式前日というのは、私がすっきりしたいだけのタイミングだった。

別れ話をするのにはふさわしくない場所でも、彼を振りたいと思っていた

新宿歌舞伎町にある肉寿司食べ放題の店の半個室を「行ってみたい店がある」と言って、私が予約した。当日、なんとなく察して暗い顔をした彼と、歌舞伎町の地下のお店に足を運ぶと、二人掛けのテーブル席がズラリと並び、半個室は見当たらなかった。

店員に聞くと、座席の間にカーテンのようなものを引き、それを半個室と言っているらしい。すぐ隣に人がいて会話が丸聞こえの上に、奥には騒がしい学生グループがいて、およそ別れ話をするのにはふさわしくない場所だった。そういう場所で、無理矢理にでも別れてしまいたいぐらい、私は彼を振り払いたかった。

彼に伝えた理由と、私だけが知っている理由はまるで違う。彼に伝えた理由は、一緒にいても楽しくないから。私だけが知っている理由は、自分を偽ること、相手を偽って見ることに疲れてしまったからだ。

憧れたのは「勝ち組」がいる居場所。そこに入るために付き合い始めた彼

中高時代、私が好きになったのは、勝ち組の男の子たちだった。振り返ってみると、彼らを好きだったのではなく、ただそういう男の子たちと付き合ってみたかっただけだ。変わり者で居場所のなかった私にとって、イケている、モテている勝ち組の男の子たちには確固たる居場所があって、私は彼らに憧れていた。

彼らに認められたかったし、彼らの居場所に入りこみたかった。

だから、大学生になって、やっとまともに人と付き合えるようになって、自分を勝ち組側の人間だと思い込みたかったし、彼をかつて憧れていた勝ち組の男の子だと思い込もうとした。私は彼に自分の価値を感じてほしくて、他の男の子たちにちやほやとされたと盛って話したり、身に着けているブランド物の服やバッグについて、わざとらしく会話に挟み込んだりした。

そして、彼を勝ち組だと思い込もうとした。他人に話す時も中学時代は野球部で、高校時代はサッカー部に所属した経歴を強調して話した。実際は、サッカー部に関しては補欠だったし、彼には運動部に所属していたことを感じさせるような勝ち組感、具体的な言葉で言うと華やかさや社交性はなかった。

むしろ、私が彼を好きだった理由は皮肉が感じられるものの見方だった。今まで優等生として生きてきて、他人の顔色を伺う癖のついた私にとって彼の性格は新鮮で、私の見る世界を広げてくれたのだ。

当時はあんなにはっきりとしていた振った理由が、今になって様々な思い出と混ざり合ってよく分からなくなってしまった。振った時は、嫌な思い出しか見えていなかったのに、しばらくたった今は「良いこともあったな」と思い出すことができ、完全否定したいのに、割り切れない気持ちになる。

好きという気持ちとも、嫌いという気持ちとも違う、名付けることのできない気持ちだ。ただ、心を通わせることのできた瞬間さえも否定してしまうことが悲しい。

入院した私のお見舞いに来た彼が見せたのは「泣き顔」だった

大学4年生の7月、私は就職活動に加え、1か月間の教育実習で過労のために倒れ、入院していた。教育実習前には内定がほぼない状態で、そのまま教育実習中は就職活動ができず、やっと実習が終わったと思ったら、2週間何もできなくなってしまったのだ。

体がやせ細りあまりに見た目が変わってしまったので、親も動揺していた。当時付き合っていた彼にも、現状報告として入院していることは伝えた。ただ、何日も風呂に入れていない状況で会いたくもなかったので、「見舞いに来ることも許されていない」と嘘をついてしまったのだ。

入院して数日後、怪訝な顔をした看護師さんが私の病室に来て、彼がエントランスで待っていることを伝え、病室に入れてもいいか聞いた。その日は平日の午後だったこともあり、彼が来たことにあまりに現実味がなくて、彼の名前がカタカナに聞こえたことを覚えている。

病室に来た彼は、付き合ってから初めて見る泣き顔だった。既に頬に涙が染みていて、私が大病でも患ってしまったかのような態度だったので、私は逆に笑ってしまった。

話を聞くと、私が入院している病院をネットで調べると、見舞いができないのは、ICUに入った患者のみと記載があったため、仕事をなんとか午後だけ休み、見舞いに来てくれたとのことだった。ICUに入ったら連絡を入れることもできないが、そんな突っ込みを入れられないほど、彼は真剣だった。

こんなに私を愛してくれていたのに、振った時には邪魔くさかったし、今では彼と付き合っていた事実さえも手触りがなく、遠い記憶になってしまっている。ただ、別れてしばらく経つと、あれだけ拘泥していた振った理由などどうでもよくなり、大切な記憶だけが、時折思い出され、私を気まずくさせる。

でも、この気まずさを忘れたくないとも思うのだった。彼に私の理想を押し付けていたけれど、本当はありのままの彼や、彼のしてくれたことがかけがえのない、私だけの宝物だったのだから。