元彼に振られたのは、半年前のこと。

もともと「かわいい」には興味がなかった。
スポーツブランドのパーカーとデニム、薄めのメイク、雑におろした黒髪。男子とも対等に言い合える。それが一番楽で、気に入っていた。
でも、大学生活は現実を突きつけてきた。ここでは「かわいい」女の子が何においても何かと優遇されるのだ。困っていたらすぐ助けてもらえるし、先輩にたくさん話しかけてもらえるし、ジュースもおごってもらえるし、失敗しても怒られるどころか、「かわいい」と言って笑ってもらえる。

「かわいい」は最強であることを知った。自分自身を大改良して「かわいい」を手に入れた

大学生活において「かわいい」は最強であることを知った「かわいくない」私は、持ち前の粘り強さで研究に研究を重ね、自分自身を大改良することとなった。

気合を入れて買ったフレアスカート。トップスを買う勇気はなかったけれど、手持ちのパーカーを合わせても随分とかわいくなった気がする。ピンクのアイシャドウをして大学に行けば、うらやましかったあの言葉をすんなり貰えた。
「今日なんかかわいいね」

なんだ、「かわいい」って簡単じゃん。
「かわいい」とは無縁だった1年生。2年目に突入するころには、メイクやファッション、言葉遣いとちょっとあざとい仕草を覚え、晴れて私は「かわいい」を作れるようになった。

彼からの告白を受けた時のことは、今でもよく覚えている。淡い色のニットとフレアスカート、ピンクを基調としたメイク、ゆるく巻いたダークブラウンの髪を携えた私に彼は照れながら言った。
「前からかわいいと思ってた」

私は「かわいい」彼女になりきれなかった。私はあっけなく振られてしまった

それからの毎日は、信じられないほど楽しかった。連絡がマメな彼と毎日LINEをしたり、授業終わりに遊園地に行ったり。気持ちを素直に伝えてくれる彼は、会うたびに「かわいい」と言ってくれた。自分の努力が認められたような気がして本当にうれしかった。

今思えばこの頃から、知らず知らずのうちに「かわいい」に疲れていたのかもしれない。

すっかり板についたと思っていた「かわいい」私は、少しずつ崩れていく。
デート前日の彼からのドタキャンの電話に、「はあ?なんで?」ときつい口調で怒る私。
今まで通りの「かわいい」私なら「大丈夫だよ。次会えるの楽しみにしてる!」と明るく答えていただろうか。それとも、「楽しみだったのに…」とかわいく拗ねていただろうか。
彼の家でのお泊りで「かわいい」部屋着ではなく、油断して可愛さのかけらもない古いパーカーを着ていた私に「いつもとちょっとイメージ違うね」と言った彼の隠しきれない失望の色。「かわいい」私なら、まずそんなミスはしなかっただろう。
その後も、私は「かわいい」彼女になりきれなくなったまま彼と衝突することが増え、私はあっけなく振られてしまった。最後に彼はこう言った。

「なんか違ったかも」

「かわいい」と「好き」が同じ意味ではないことに気づいた。好きを追い求めたくなった

そこで私はふと自分の思い違いに気づいた。
彼の気持ちは、最初から「好き」じゃなくて「かわいい」だったんだ。

デートの時、いつも言われていたのは「かわいい」という言葉。さかのぼれば告白された時でさえ、「好き」とは言われていなかったではないか。こんなところでも発揮されていた彼の素直さに気づいて、思わず苦笑いをこぼした。

「かわいい」を身に付けかけた3年生。私は「かわいい」と「好き」が同じ意味ではないことにやっと気づいた。

相変わらず「かわいい」服を着ている私は、過去の私と一味違う。せっかく身に付けた「かわいい」を手放すつもりはない。でも、「好き」を追い求めたくなった。
結局変えることができなかった、「かわいくない」私も「好き」と言ってもらえるように。「かわいい」けれど「かわいくない」私、始めます。