ああ、傾いてる。
やばいやばい……。
もう無理だって分かっていても、積み木をすくっては載せ、どんどん積み上げていく。
ぎりぎりで落ちそうな積み木。
ゆらゆらと揺れるジェンガ。

ああ、私。嫌われたんやな。相手の気持ちが冷める時は何となく分かる

付き合っていて相手の熱が冷めてくるときは、何となく分かる。
遊びに出かけても相手があまり楽しそうに見えない。
話しかけても返答がそっけない。
LINEのやり取りが減る。既読や返信が遅くなる。
急に相手が遠い存在に感じる。

ああ、私、嫌われたんやな……。
ふられるなっと、さすがに気付いて落ち込む。 

そりゃそうよね。私色々迷惑かけてきたんだもの……。
働き出してから私は体調を崩し、適応障害、鬱病になった。
自分のことでいっぱいいっぱいだった。
年下の彼氏は、まだ大学生。
辛かったら気軽に頼ってくれていいからという彼の優しさにすっかり私は甘えて負担をかけてしまっていた。
あのときは外に出ること自体がしんどかった。
一緒に出かけても顔は死んでるし。
LINEではネガティブな発言ばかり。
会ったときも本当に辛すぎて死にたくなるんだと言ったら、彼はお願いだから絶対やめてと涙ながら私の腕をつかんだ。
なんて重くて暗い彼女なんだろう。
気分の浮き沈みが激しくてよく彼を振り回していた。

体調が良くなってやっと回復したと思ったら、また数年後に再発。
先が見えない不安に彼もしんどかったと思う。
私は自分をふった彼のことを責めらない。
もし、あのとき逆の立場だったら、自分もそこまで優しくできただろうかと不安になるし、相手が死ぬかもしれない不安で押し潰されそうになるだろう。
むしろ、迷惑ばかりかけてごめんね、ありがとうという気持ちでいっぱいである。

傾くジェンガを倒すのが怖くて、そっと積み木を乗せて相手に委ねる

私をふる前も、彼は悩んでいたようだ。
それが前の部分で書いた彼の行動につながる。
ーー遊びに出かけても相手があまり楽しそうに見えない。話しかけても返答がそっけない。
LINEのやり取りが減る。既読や返信が遅くなる。
急に相手が遠い存在に感じるーー

彼は時間をかけてどうしようかと考えていたのだ。
一方で私はというと、相手の思いが冷めてくる過程があまりにも寂しくて辛く感じた。
殺すなら早く殺してくれ、みたいな。
くー、苦しい。早くズバッと、ふってくれみたいな。
ここでも私は自分のことしか考えていなかった。
そしていつも受け身だった。

ぐらぐら揺れるジェンガを倒すのが怖くて、そっと積み木を載せて相手の番に委ねる。
終わりにしようって自分から言えなかった。色々助けてもらってたのに自分から別れを言い出すなんてできない、なんて言い訳をして、でもこのまま関係がうまくいくはずがないのも明らかだった。

夜道を2人で歩いていたあるとき、彼が急に立ち止まり、「ねえ、俺のこと好き?」って
珍しく私に尋ねてきた。
そしてどこか悲しそうな顔だった。

彼がジェンガのタワーを倒したとき、どこかほっとしてる自分がいた

「えっ……」
私はすぐ即答できなかった。
あわてて「うん、好きやで」と言ったけど、気まずい空気が流れていた。

それからしばらくたって、別れようと彼から長文のLINEがきた。
お互い言いたいことを吐き出して、そこで初めて本音で話せたような気がする。
皮肉なことに久しぶりにLINEのやり取りが続いた。
そして最後は円満に別れることができた。

誰がジェンガを倒すか。
ふられるのもしんどいけど、ふるのも、勇気がいることだ。
ふることで、ちょっとした罪悪感が残るかもしれない。 
私は最後まで相手任せにして受け身だった。
自分で選択をせず、相手に押し付けたのだ。
そんな自分を少しずるいなとも思う。

ジェンガのタワーを彼がガシャーンと崩してくれたとき、覚悟はしてたけど凹んだ。
でも、どこかそれ以上にほっとしてる自分がいた。
ジェンガを倒してくれてありがとう。
おかげで私は前に進むことができた。

仕事も恋愛もリセットしよう。
そしてもう一度、一段ずつゆっくり積み木を積み上げていけばいい。