ある日突然言い渡された私の部署名と赴任地。
私がそこで仕事をしなければならない理由も、期間も告げられぬまま、「わかりました」というためだけの内示の時間。
希望が通っていようが通ってなかろうが、会社の決定事項を一方的に告げる方式は、“日本の伝統的なキャリア形成”の一環なのだろうか。

初めての赴任地発表は、私の中で2年経っても色あせない、会社への不信感の泉の元だ。

20代後半、人生の貴重な時間を過ごす土地は、一方的に告げられた

新入社員として半年間の研修が終わり、全国100カ所以上もある営業所への配属を告げられる日。なかなかお目にかかれることのない部署のトップがやってきて、1人1人面談をして伝えられるとのこと。20代後半の重要な期間の人生の送り方を左右する重要な辞令に、高揚感と恐怖の気持ちが混じっていた。

同期が順番に部屋に入っていく、思っていたよりも面談時間が短いのだな、とその時点でささやかな違和感があったことを覚えている。
そして、ついに私の番。部屋に入ると、私の顔と名前が一致するはずのないお偉い社員さんが、私の名前を確認する。そして、
「早速ですが、あなたの赴任地をお伝えします。〇〇営業所です。何か質問はありますか?」と。

旅行すらしたことのない縁もゆかりもない土地を急に告げられ、言葉を失った。
「質問ですか、いえ、特にありません。」とだけ必死に答えたかすかな記憶。その後、その土地に行った経験を聞かれ、「頑張って下さい」の一言でクロージングをされた。

そうして、私の人生を送る土地は、一方的に告げられる面談で決まったのであった。

こんなの、まるで付き合った途端に冷たくなる彼氏みたい

この現象、どこかで経験したことあるような。
考えてみると、付き合った途端に冷たくなる彼氏。そう、それ。

入社する前、私は今の会社からたくさんの愛を受け取っていた。
面接を受けた後すぐに、次の約束を提案してくる。審査が通った時には、いかに私が素敵な人で、私の事が好きであるか、たくさんの言葉を並べて伝えてきた。入社を決意した連絡をすると、嬉しい気持ちを長電話で伝えてくれた。

そんな会社も、一員になった途端に興味を失い、私は1つの駒にしか見えなくなったらしい。どうして私という存在が、その赴任地に行くことになり、何を期待されての配属なのかすら、教えてくれない希薄な関係性に。
何か冷たくされるようなことを、したっけ?私嫌われてる?あーあ、こんな事なら付き合わなければよかった。

会社と社員の関係性が変わること。それが、はじめの一歩なのだ

言ってしまえば若手社員はいち労働力でしかなく、誰がどこに赴任するかなど、多少の条件精査はあれど、伝えられるほどの大きな理由はない。百も承知である。

でも本当にそれでいいのであろうか。
居住地に縛られない働き方、1つの会社に縛らず自分のスキルをマルチに活かす働き方。
様々な新しい働き方実現の風が吹いている中で、組織の人事がブラックボックスであることは、社員の心が離れる一因。
女性の営業担当は増えてきたが、会社の全国赴任制度については十分に成熟していない。「女性は男性よりも、土地をある程度選択できるように考慮すればよいのでしょ」と考える姿勢は間違っている。男性の全国無期限突然異動制度を続けることは、パートナーの女性もそのキャリアや家族の過ごし方を問われる問題である事を十分に考慮するべきだ。

男性は、仕事を優先し、どんな条件でも働き続ける事を期待される役割を担っていない。
女性も、家事・育児をするために仕事負担を減らしてもらい、雇用条件を落とされるのも違う。
性別関係なく、自分が望む生き方の実現を考える中に、働き方の選択があるのである。
だからこそ、会社はどの社員に対しても、十分な期待する発揮役割、赴任やポジションを決定したプロセスと理由、条件を明示し、是非ともこの選択を選んでもらえるようお願いする必要がある。

会社と社員の関係性が変わること。
それが、男女の働き方の差別をなくすはじめの一歩なのだ。