セフレという関係を知らなければ椎名林檎の「罪と罰」に涙を流すことなんてなかった

帰りのバスで、下半身の疲れと少しの虚しさを感じながら曲を聴くのが習慣になっていた。大体aikoか椎名林檎。
人生で初めて出来たセフレは、同じクラスの、大して仲良くもなかった男子だった。きっかけは深夜特有の変なノリ。電話で暴露大会をしていたらそういう気分になって、じゃあ暇な時会おう、ということになった。
お互い高校三年生で受験生なのにもかかわらず、同じ週の土曜日に会うことになった。即決だった。今考えると本当に性的なことで頭がいっぱいだったと恥ずかしくなる。
最初は良かった。ずっとLINEして、電話して、会ったときはイチャイチャして、疲れてハグしながらベッドで寝て。寝ぼけたふりして「離れないで」なんて言って。髪もお互いにヘアアイロンでセットしあって(どっちも下手くそだったけれど)。そのへんの恋人よりラブラブなのでは?と勘違いするくらい、楽しくて充実していた。
クラスメイトとそういう爛れた関係になっているとは周りにも言えず、少しの背徳感を味わってみたり、私だけ購買のオムライスを奢ってもらったり、相手が休んだときに授業プリントを机に入れてあげたり。全部些細なことだった。
でも会う回数が増える度、見送りの距離やくっついている時間、目が合う時間が短くなった。会っている時間のうち名前なんて一回も呼ばれなかった。
会っても行為が終わってからは、相手は私よりスマホに夢中で。ただただ虚しさしかなかった。
「セフレってやっぱりこういうものなんだ。」って、薄々気づき始めて。
それまでは、ネットに転がっている記事を読んで得たぼんやりとした認識しかなかったけれど、最終的には書いてあることのほとんどに共感できるようになってしまった。
『身体を重ねると女性は情が湧いて、相手のことを好きになる傾向が高い』というような記事をよく読むが、実際そうだった。
友達以下の存在としか思っていなかったのに、会ってからは一日のうち相手のことを考えている時間の割合が大きかった。情湧きまくりだ。
その日あったことや嫌だったことを報告するだけの電話を掛けるなんて、日常茶飯事だった。私がベラベラ喋るだけで向こうは何も言わずに、何か話題を振っても「わかんない」しか言われなかったけれど。
そんな対応だったから、もう連絡するのやめようって思った日に限って突然連絡してきて、「電話したい」って言ってきて。本当にタイミングが悪すぎる。
そんなことが数えきれないほどあって、半年ほど関係がダラダラと続いた。
今では会わなくなり、LINEもほとんどせず、相手に対して何の感情もなくなった。
それは向こうも同じだろう。その境地に至るまでに、変な執着心やら依存心やらを取り除くのに苦労した。
この関係を持ってしまったことに後悔はしていない。
なぜならこの経験がなかったら、椎名林檎の『罪と罰』を聴いて涙を流すなんて、絶対にあり得なかっただろうから。
でも私が開けてあげた左耳のピアス穴を見て、たまに私のことを思い出してくれればいいな、と思うくらいは許して欲しい。
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