ママみたいねって言われる。優しいねって言われる。一緒にいると楽しいよって言われる。きっと私の心は海のように広く、その海はどこまでも静かに凪いでいる。
 いつまで経っても、あの娘のことは健気な娘だったと思う。健気で果てしなく不器用だったあの娘に感謝してる。あなたがいたから、今の私が生まれている。

小中高全部で人間関係を拗らせた。自己肯感は摩耗するばかりだった

 あの娘は強がりだった。1人でも平気よ、お友達なんていなくていいの、そんなもの足枷だなんて言ってた。でも、寂しがりやで愛されたい、頼りにされたいと思っていた。いつもいつも。
 言葉と行動、気持ちがいつも伴わなくて、小中高全部で人間関係が拗れていた。険悪になって後悔して、その度に自分を責めて、ただでさえ擦り切れていた自己肯定感をさらに摩耗させていた。
 周りと楽しくおしゃべりがしたいの本当は。だからユーモアのある動きと抑揚の強い話し方、悪い口調を身につけた。頼りにされたいの本当は。だから、意見ははっきり言ったし、手厳しいことも言った。言葉は選ばなかった。ちゃんと伝えたいと思っていた。
 でもそれが良くなかった。あの娘は周りからは煙たがられるようになった。あの娘は寂しくなって、さらに厳しいことを言うようになった。真面目にちゃんと伝えたら見てくれる、きっと伝わる、そう信じていた。でも、周りの人はますますあなたを嫌った。

あの頃のあなたをみんなが悪く言ったとしても、あなたに感謝してる

 高校を卒業して、大学生になって、恋人ができた。厳しい物言いはなくなった。でも、自己肯定感の低さも、相手に愛されたい、愛されるに値される人間になりたいと思う気持ちも、変わらなかった。恋人と何度も体の関係を持って、彼が体目当てじゃないかと思い始めた。鏡越しに見るあなたは、確かに男好きする体だと思う。
 あの娘は言った。「性格も顔も褒められたものじゃない、でも体だけはいいのよ」
 あの娘は初めて自分の褒められる部分を見つけてしまった。体目当てでもいいの。男なんてみんなそうでしょう。体目当てでもいいの、その時は少なくとも私を見てくれるでしょう。もう、体目当てでもいいや。あの娘はドライアイに悩む目を潤ませた。
 あの頃のあなたをほとんどの人が否定するでしょう。中には拒絶する人もいるのでしょう。人間関係もろくに築けないなんて、恋人すらまともに信じられないなんて。でも、忘れないでほしい。あの頃のあなたをみんなが悪く言っても、私はあなたに感謝してる。

濁流のように、全てにぶつかって、削って押し流して暴れ続けた

 濁流のような人だった。岩も土も何もかも全てにぶつかって、削って押し流して、痛みも意に介さず暴れ続けていた。あの娘はとても痛い思いをしてきた。
 ねえ、あなたがいるから今日の私があるのよ。きっと、海のように広い心は、あなたが濁流となって狭い心の川幅を目一杯広げてくれたからできたのよ。
 誰にでも優しくできるのは、あなたが昔愛されること、優しくされることに沢山の理想を抱いたからよ。
 だから私は、誰に何と言われても濁流だったあの娘をずっと大事にしているの。ずっと愛しているの。そして初めて、あの不器用な娘が、過去の私が、報われる。