「今日も肉体労働~。お金もらってダイエット(笑)」。あと数年で還暦を迎える父から、こんなLINEが届いた。2020年4月のことだった。

「いつだって楽観的で前向きだよなぁ」これは、わたしが“父に実は伝えたいこと”の1つである。

父が転職した時「何歳になっても、夢って叶うんだなぁ」と思った

父は、長いこと“運転手”として働いてきた。子供の頃、運送会社で働いていた父は、時々幼いわたしを助手席に乗せ、全国各地へ荷物を運んでいた。家の車とは比べ物にならないくらい大きな窓ガラスから見える景色や、大きなハンドルがとても印象的だった。

わたしが小学校にあがってしばらくしてから、父が運送会社を辞め、観光バスの運転手に転職した。父は、子供の頃からバスを運転するのが夢だったそうだ。あんなに大きなトラックを運転していたのだから、バスもすぐに運転出来るのだろうと思っていた。

しかし、トラックでは物を運んでいるが、観光バスでは人を乗せるので新たに免許が必要らしい。大人になっても勉強ってするんだなぁと、複雑な気持ちなったと同時に、何歳になっても、夢って叶うんだなぁと思ったことを今でも覚えている。

晴れて観光バスの運転手になった父は、全国各地を駆け回った。早朝の送迎や夜行バスなど勤務時間はバラバラで、夜中や明け方に出勤することも多かった。仕事柄、泊まり仕事で何日も帰ってこないこともよくあった。

そんな父の勤務形態に慣れなかったからか、明け方出勤する父の気配で目が覚め、よく寝室の窓から妹と見送りをしていた。当時は、なんだかこのままずっと会えなくなるのではという漠然とした不安と寂しさに駆られていた。窓の鉄格子を握りしめ、顔がハマるくらい前に突き出して、目一杯手を振って見送っていた。

当たり前だと思ていたけど、社会人になり「父のありがたみ」を感じる

あれから、十数年経ち、わたしも社会人になった。毎日同じ時間に起きて、働くだけで「あぁ、今日も疲れたなぁ。頑張ったなぁ」と自分を労う日々だ。社会人になって、しみじみと父のありがたみを感じるようになった。

決まった勤務時間や休みがないにも関わらず、休みの日は娘のわがままに付き合ってくれた。遠出などで帰りが遅くなる時は、自分が早く帰って来ても晩酌を我慢して、迎えにきてくれた。1つ1つ当たり前に感じてしまっていたけど、とてもありがたいことなのだなぁと今は心から思う。

そうこうしているうちに、新型コロナウイルスがあっという間に流行した。観光に携わる父はどうしているのだろうか、聞いてもいいものだろうかと思っていると、父から画像が送られてきた。ダンプカーや工事現場の写真だった。なんと、父は副業でダンプカーの運転手をしていたのだ。父がダンプカーを運転する日が来るなんて夢にも思わなかった。

新しい環境に柔軟に対応していく父の背中を見て、自分も前向きになる

突然畑違いの業界で働くことになった父に、とても驚いたものの、当の本人は「今日も肉体労働~。お金もらってダイエット(笑)」なんてメッセージを送ってくる。本当のところは私には計り知れないけれども、新しい環境でも、前向きに働く父の姿には勇気をもらった。

未曾有の危機の中、新しいことへのチャレンジを強いられたり、漠然とした不安に駆られることもあるけれど、新しい環境に柔軟に対応していく父の背中を見て、自分もウジウジせずに、もっと気楽に、前向きに目の前の出来事ひとつひとつと向き合っていきたいと思う。

「いつも前向きで楽観的なとこ、いいよね」と今度帰省する時には、実家でまったりとお酒でも飲みながら、ちゃんと思いを言葉にしたい。