物心ついたある時から、私はお父さんのカバンを探っていた。そこからは、色々なものが出てきた。
今思えば風俗の名刺みたいなものが、コレクションかのようにたくさん出てきて、お父さんとチューした時の感想が女の子の可愛い字で書かれていた。社用携帯だったのかもしれないけど、家族が知らない携帯をもう一つ持っていた。その携帯には、知らない女の人が映っていた。
お父さんのカバンやPC履歴を見て、私は「父を好きになれなかった」
お父さんのPCの履歴は、大人向けのことばっかりだった。そんなお父さんのこと、ずっとずっと好きになんてなれなかった。好きになることが、とても難しかった。そんな自分が苦しかった。
その影響で、私は今でも少し拗れた考えを持っているかもしれない。好きな人ができて、結婚してこんな風になるのは嫌だし、風俗にも興味のようなトラウマのようなものを感じる。
だけど、今も昔も、お父さんはお母さんと仲が良い。お父さんは、お母さんを幸せにしている。それだけで私は、お父さんを許せていると思う。あの頃見たものだって、全て私の心にしまい込んでいる。お母さんは何かをどこまで知っていたのか、わからない。
お父さんは母を幸せにしているし、私は父に感謝していることもある
お父さんとお母さん、男女の愛みたいなものはもう2人から感じられないけど、毎日一緒にテレビを見て大笑いして、休みの日は一緒に洗濯物干して、毎晩一緒に晩酌して、一緒の部屋で寝ている。
今まで家族だから当たり前の光景だったけど、20代後半になった今、そうやって生活を楽しく共にできる男女って、凄いことなんだなと思う。なんだかんだ言って、どこかで相手を好きじゃなきゃ、リスペクトしていなきゃできない、と。
お母さんが元気でいてくれるから、私は表立ってお父さんへの気持ちは言えない。許せなかったことなんて言えない。お母さんに申し訳ないから、あからさまな反抗期も迎えていない。でも、「お父さん大好き」って甘えることもできない。本当はそうでありたかったけど、それはこれからもきっと難しい。
私は、お父さんからもらった容姿だから、褒められることもある。肌が荒れにくいのもお父さん譲りでありがたかった。ある意味で、お父さんの遺伝子で良かったとは、ちゃっかり思う。
お父さんのカバンの中を見て、今も「好き」とは言えなくて…ごめんね
そして今、私が結婚したいと思っている人は、お父さんにどこか似ている。背は高くないし、イケメンでもない。でも、穏やかでおとなしいところとか、同じカバンをずっと使うところとか、お父さんに似ているから、きっと普通の家庭が築けるだろうと安心してる。お母さんみたいに、笑って過ごせるんじゃないかなって思える。
頼むから子どもができたら、特に娘ができたら、カバンの中を綺麗にして、風俗の名刺を残しておかないでくれよな、とは彼に思うけれど。
お父さん、カバンの中や携帯やPCの履歴、見てたよ。なんでかはわからないけど。ごめんね。そのせいで今でもやっぱり「お父さんが好き」とは言えなくて、ごめんなさい。でも、あの時のお父さんはきっと40代くらいで、いろいろ嫌なこともあったんだろうな。今年定年になったお父さん、お疲れさまでした。これからもお母さんを幸せにしてあげて。そうしたら、あの頃の思い出が許せるから。