私は、父の事を恨んでいる。
パチンコで作った借金のこと、浮気のこと、そして殴られたこと。
私ももう30歳になるというのに、思い出すたびに悔しさとみじめさと悲しさと色々な気持ちが入り混じった苦々しいものが、喉までせり上がってくる。
だけど、それだけじゃない。その中には愛のような何かも、やっぱり混じっている。
だから困るんだ。

使わなくなったケータイをくれた父。保存されていた画像で私は察した

冒頭だけ読むとしょーもない父親だと思われるだろう。まあ、しょーもないのは確かにそうなんだけど、多分会ったらびっくりする。
ぱっと見は人当たりのいいオジサンだからだ。

初めて父に怒りを感じたのは小学生の頃。父が使わなくなったケータイをくれた。私は喜んで写真を撮ったりして遊んでいたんだけど、データフォルダを開いた時にびっくりして固まってしまった。

知らない女の人の裸が写っていたのだ。それは拾ってきたデータではなく、撮影したものに見えた。なんというか、私は察しがいい子供だったから、ちょっと考えてからケータイを叩き落として破壊した。

母には絶対知られちゃいけないと思った。なぜか、父にも知った事を知られてはいけないと思った。間違えて壊したと嘘をついてバカな子供のフリをした。
その夜から布団の中で、"お父さんが浮気なんかしていませんように"と祈りながら眠りにつく日々となる。今思えば、私はなんて健気で可哀想なのかと思うし、父に至っては隠すつもりがあったのか?と呆れ果てる。

そういうものが重なって私の悲しみは不信に繋がり、中学の頃あたりから父に反抗的な態度をとるようになった。とりあえず口も聞きたくないし、顔も合わせたくない。
父を避けるものだから向こうも私に苛立ち、言うことを聞かないと殴ったり髪を引っ張り回す事もあった。

暴力と借金をする父。思い出すのは馬乗りで平手打ちをされたあの日

だが私は虐待ではないと思っている。私の反抗期はなかなか酷かったし、全力で抵抗する素直じゃない私にも非があった。
高校生の頃、一時期学校に馴染めない時があった。学校に行きたくないから寝坊しがちになる。父は普段は気にも留めない癖ににその日は機嫌が悪かったのか、ベッドに横になる私に馬乗りになり、平手打ちを喰らわしてきた。

私は両腕を振り回し全力で抵抗するも、やはり男の力には敵わない。髪を引っ掴んでまだ続けようとする父に、母が止めに入った。その時の私はぐちゃぐちゃで、全身の血が逆流するような怒りと、それ以上にもの凄いみじめさを感じた。

落ち着いてから鏡を見ると、目の下の血管が切れてアザになっていた。アザをさすりながら、なぜ反抗するのかという理由を1ミリも考えず力や大声でねじ伏せようということが心底許せないと思った。
そして挙げ句の果てには、ちょっとここには書けない額の借金をパチンコで作ってきやがった。しかも私と弟に祖父が学費として残してくれた預金も使い尽くして。

悪魔のように思える父。反面教師にして、夫に伝えたことがある

こうやって列挙すると悪魔のような父に思えるが、いつもこうな訳ではない。私が知らない事をたくさん教えてくれたり、読書が好きな私をよく褒めてくれた。だからなのか今でも読書が好きで、読み続ければ誰かに褒めてもらえるようなそんな気がしてしまう。
多分父は、大人になりきれなかったんじゃないかと思う。

変に繊細で時々内に籠る自分を引きずったまま大人になり、そしてもしかしたらそんな自分が嫌いで、同じ性分をもって生まれた娘を正したくて殴ったのかもしれない。
いずれにせよ暴力は絶対に間違っている。だから夫には口酸っぱく、どんな事があろうと子どもに暴力を振るわないでほしいと話している。

結局父は反面教師でしかないわけだ。
そしてこの気持ちを、父に実は伝えたいのかも正直分からない。老い先短いであろう父に、今更まだ私の中にこんな気持ちがジクジクしている事を伝える事が可哀想に思えるのだ。

いつまで思春期してるんだと思われるかもしれない。でも、親子はきれいごとじゃない。世間にはもっと酷い父親もたくさんいると思うけど、私の父は"あの父"一人で比べられるものじゃない。
だからきっと父がいなくなるその時まで、私は父を許すことをしない。この感情が私と父の間にある唯一の親子の証明だと思うから。