「いっそ死んでくれ」と、思ったことが何度あったかわからない。働かず、飲んでばかり。口を開けば、金の無心。母に愛想を尽かされ実家からは勘当され、この広い世界にたった一人で放り出された人。行方もわからないし、探したくもない。
学校で嫌なことがあったとき「ずっと味方だからね」と言ってくれた父
小さい頃は、よく遊んでくれる父親だった。日曜になれば、家の前で妹と3人でドッジボール。自転車に乗れるようになったのも、逆上がりができるようになったのも、全部お父さんのおかげだった。
健康志向の母がお昼に用意してくれたものを全部無視して、母がいないお昼ごはんは決まってハンバーガー。もちろん母から常日頃から骨が溶けると口酸っぱく禁止されていた、あの魅力的な黒い炭酸飲料付き。その後、ゴミが見つかってこっぴどく怒られてたっけ。父と過ごす休日はとても楽しかった、思い出すと痛いぐらいに。
恥ずかしくたまらない私は目に入らないみたいに、授業参観では派手な青色のジャージを着て大きく手を振ってくる人。私と妹が、広告の裏に描いた似顔絵をボロボロになっても鞄に入れ続けていた人。学校で嫌なことがあったとき、「お父さんはずっと味方だからね」と言ってくれた人。
私が眠れないと言うと、眠れるまで背中をさすってくれた人。そのリズムが心地よくて、すぐに眠れたんだよね。作る料理は全部油でテッカテカ、健康志向の母の怒号付き。唯一上手に作れるのは、ドライカレー。レーズン入れる、入れないで喧嘩したっけ。
母にパチンコに行くなってどれだけ怒鳴られてもヘラヘラ笑っては、「ナイショだから」と景品のお菓子をたまに私と妹にくれたんだよね。タバコもずっとやめられなくて、いつもタバコ臭い人。最後に行った家族旅行では、嬉しそうに写真をたくさん撮っていた人。
全部、全部覚えてる。今はいっそ忘れたくてたまらないのに、全部鮮明に覚えている。幼少期の父は、いつもキラキラしている。顔はあまり思い出せない。
働かずに「金くれ」と言う父。いっそ、のたれ死んでくれてたら…
怒ると怒鳴り散らして、物に当たる小心者の人。ギャンブルにどっぷり足をとられて金銭苦。挙句の果てには人様のお金に手を出し、仕事をクビになって自暴自棄。嫌々いうアイツを無理矢理ハローワークに引っ張って、でも資格もなんもない中年には仕事はほとんどなくて、やっと見つけた仕事も真面目に働こうとせずすぐ辞めて。また、金くれ金くれの無限ループ。
いつかのファミレスでは、業を煮やして水をぶっかけたんだっけ。周りの人の冷ややかな目。なんだこの底辺な親子って、思わず笑っちゃうよ。
母に見捨てられ家を追い出され、金くれ電話はヒートアップ。娘だとか、そんなのどうでもいいみたいにさ。ただ金くれ金くれってさ、ほんとに最低だよ。じゃあ働けよ、こっちの気持ちも知らないで。金を送ったら、一生金づるにされるんだろうな。
家賃が払えない。光熱費が払えない。保険料が払えない。払えないものばっかりだね。生きるのには、お金がいるんだよ。いっそ、のたれ死んでくれてたらいいのに。
「ずっと味方」と言った父を見捨てるのかと、子供の私に責められる
でも、あなたの血が入っていることを憎むたびに「ずっと味方」と言ってくれた人を見捨てるのかと、子供の私に責められる。もう、あの頃のあなたの顔も思い出せなくて、美化されてるのかもしれないくせに、私は下手に優しいあなたを知ってしまっていてどれだけクソ人間だと言い聞かせても、あの優しい父親がどうしても邪魔をする。まるで呪いみたい。ああ、死んでくれれば楽になるのに。
金も送らない、電話もブロック。「お前なんて父親とも思ってない!縁も切るからどっかでくたばってろ!」と捨て台詞を吐いたのが最後。その後の消息は、不明。
でも、本当は生きていてほしいと思う。あんなクソみたいな人でも、私には一瞬でも優しい父親だった。もっといえば、幼い私に理想化されすぎたあの父親に戻ってと思う。でも、もう大人の私は現実を知ってしまっている。
ただひとつ。私はね、あなたのこととても好きだったんだよ。だからもう「死ね」なんて言わないから、ちゃんと立ち直って。さようならお父さん。