父へ。私があなたのお母さんに好かれていないことは、子供の頃から分かっていました。私の母が好かれていなかったことも。その理由が何であれ、私は別にどうでもよかったです。
本当は何もいらないから遊んで欲しかったけれど、ロクに目も合わさずお金だけ渡しておけばいいと思われていたことも。お金を貰えただけで十分幸せなのだと割り切っていたし、何より私は父と母という家族がいれば、それだけで十分でした。
私は父の家族が、父にとって本当に「良い家族」だったのか疑問に思う
私はあなたのお母さんのことも、お兄さんのことも、あなたの家族については大して興味を持たれなかった、ただの“孫”という立場からしか知りません。でも、あなたにとっては大切な、立派な家族なのだと思っています。
だから、私は気まずさや嫌悪感や胃の痛みを極力顔に出さないように、接してきたつもりでした。それでも嘘を吐くのが苦手な性質ですから、多少顔に出てしまっていたかもしれません。それは申し訳ないことをしたと思っています。
けれどある時から、あなたの家族が、本当にあなたにとって“良い家族”だったのかどうか疑問に思い始めました。私の父であるあなたの一面と、私に好意的ではなかったあなたの家族の一面しか知りませんから、本来はそんな風に思う立場にはないのでしょう。けれど、この疑問は年々確信へと変わってまいりました。
あなたが過度なアルコール摂取によって、重い症状を誘発し病院で搬送されたとき、あなたの家族は、あなたと別れた妻よりも心配しておりませんでした。そして、あろうことか倒れて弱っているあなたのことを叱責しましたね。過度なアルコール摂取は、確かにあなたの過失です。ですが、状況を考えたら今あなたのお母さんがやるべきことは、少なくとも叱責では無かったのではないかと思います。
どうして…父の家族は「絆」が希薄なのか、私は悔しく思う
それからも幾多の苦難を乗り越えた今、あなたは大病を患いました。あなたを想う私よりもずっと近くにいるあなたの家族は、あなたよりも自分たちの心配で忙しいご様子で、あなたのことを気にかける様子も見せません。
私は、あなたの家族のことをとても“家族”だと認識することが不可能です。どうしてあなたの家族は、こんなにも絆が希薄なのでしょう。これが数十年前の家族の在り方なのだと言いますか。ならば私は、あなたがそんな時代に生まれてきたことを何よりも悔しく思います。そして今、あなたがあなたの家族に大事にされていないことを誰よりも恨んでいます。
私は、あなた自身の家族ともっと向き合って欲しかった。それが家族の団結を乱す行為だったとしても、親に逆らうことが禁忌だったとしても。あなたの家族の綻びから目を逸らさないで欲しかったと思っています。
家族のことを「嫌いだ」って言っても許されると思うよ
親や家族そのものが歪んでいるのだと認めることは勇気がいるというのは、私が痛いほど分かっています。家族と向き合うことが、実はこの世で一番難しいことだということも誰よりも知っています。
それでも、仮にその一瞬に傷付いたとしても、その先に出会う可能性のある“本当にあなたを大事に想ってくれる人”を手放さなくて済むのなら、その傷は必要な傷だったはずなのです。
もし、昔のあなたがきちんと家族と向き合ったことで運命が変わり、あなたとあなたの妻だった人が出会うことなく、私が存在しない世界になったとしても構いません。こんなことを言ったら怒りますか。悲しみますか。それでもこれが、私の真の気持ちです。
ねえ、オトン。家族のこと、「嫌いだ」って言っても許されると思うよ。それでも嫌いになれない、歪んでいないと思うのなら、仕方ないんだけどさ。でも、私はこれからもずっと悔しいよ。