「今日は何時出発?」と毎朝、父が私に聞いてくる。小さい頃からそうだった。友達とディズニーランドに行くとき、豊島園プールに行くとき、部活の練習試合のとき、買い物に行くとき、寝坊したとき……いつも父に最寄り駅まで車で送ってもらっていた気がする。
高校生までは、ラッキーくらいに思っていた。真冬にスカートで自転車をこがなくて良いし、真夏に汗をかきながら歩かなくて良いから。しかし、大学へ進学し、一気に大人への階段を上り始めると、父に送ってもらうのが“甘え”と感じるようになり、卒業前に「甘えるのも学生まで」と決めた。
あの頃の決意はどこへ…今もなお毎朝最寄り駅まで送ってもらっている
社会人になり、仕事にも慣れ、後輩もでき、上司や同僚とも良い信頼関係が出来てきた。「バカやってたね。私たちも大人になったね」と、学生の頃の思い出を語りながら、友達とビールを飲むこともしばしばある。
学生の頃は1限の時間になかなか起きられなかったし、自分のやりたいことだけをやっていた。考え方も生活も、色々と大人になったと感じる一方、あの時の決意はどこへ逃げてしまったのか、今もなお毎朝最寄り駅まで送ってもらっている。
「実家だと自立できなそう」と、誰かに言われた言葉が心に突っかかってる。「あー、また今日も甘えちゃったな」そう思いながら車に乗り込む。
朝の10分で気づいた。父も私も自分の話に夢中になると早口になる
私と父はお互いたくさん話すタイプではないから、ラジオだけが流れる日もあれば、高速から降りてくる車の台数を当てるゲームをする日もある。そんな朝の10分。しかし、この前は珍しく父が話していた。そこで気づいたことがある。
それは、父も私も自分の話に夢中になると早口になること。多分、父は気づいていない。私も友達に言われて気づいたから。父がなぜ早口になるのかは知らないが、私は自分が話の中心にいるのが少し苦手で、自分の話になるとなるべく早く自分のターンを終わらせようと早口になる癖があるようだ。
父と似ているところを見つけられて少しホッとした。なぜなら、社会人になって自分の性格の複雑さに嫌になり、「なんで私はこうなんだろう」と悩むことが多くなったから。父も母も楽観的な人だから、「なんで自分はこんな性格なんだろうか、誰に似たんだろうか」と思うこともあった。
だから、父との共通点を見つけ少しホッとし、少し嬉しくなった。小さい頃は、親戚に「お父さんそっくりね」なんて言われると嫌な顔をしていたようだが、今はそれを嫌だとは思わない。
私は「お父さんそっくり」だから、優しさも受け継いでいるといいな
私を送るためにわざわざそのあと仕事の予定を入れたり、「今日はいい」と断ると、「たまには自転車で行け!」と言いながら、少し寂しそうな顔をする父。
母はよく「お父さん以上に優しい人はいない」と言う。最初は理解が出来なかったが、最近やっと父の優しさが理解できるようになったし、私も“お父さんそっくり”だから、その優しさを受け継いでいると信じている。今のところ兄の方が優しいが……。
そんな私ももうすぐ実家を離れる。実家を離れるまでは甘えさせてもらってもいいかな、そう思う朝だった。