私が覚えているのは、私にとって都合のいいあなたの姿です。でも私が聞くのはあなたが最低な姿でした。いないからこそ憧れて、いないからこそ嫌いで、大好きでした。
私の父親は、私が五歳ぐらいの時に母と離婚して母についていったため、離ればなれになりました。幼い私はなにも分からず、理解ができていませんでした。しかし母が傷つき泣いている姿を見ていたため、幼心にどこか分かっていたのかもしれません。
幼い頃の父の思い出は大きな手と、大きな背中それだけです。父はいつも家におらず、たまに一緒にいるときがとても嬉しかったのだけ覚えています。その嬉しかった記憶をそのままに、父親がいない寂しさを、悔しさを、惨めさを埋めていたのです。母には嫌いだといっておきながら。しかし、嘘ではありません。
私はかすがいになれなかった。だって私ができたから結婚したと知っているから。私によって結婚という契約を交わした二人の人は、私というものが生まれ落ちても離れてしまった。わたしはどうでもいい、契約に値しない存在なのだと思春期のわたしはある時気づいていたからです。
嫌いとは難しいですね。でもね、いないからこそ好きな、大好きな記憶は私のいいように、好きなように姿を変え、私の脳裏に、胸のなかに住み着いているのです。
成人を迎え父に連絡が取れる嬉しさと、悔しさと、ほんの少しの後悔と
でもね、お父さん、母との喧嘩を、手を出している姿を最近になってよく思い出します。私に彼氏ができたからでしょうか。それともまた、成人を向かえたためあなたと会うようになったからでしょうか。
あなたと久しぶりに連絡を取ったとき、とても緊張しました。連絡が取れる嬉しさと、悔しさと、ほんの少しの後悔を分かってくれますか。
この年になって色々なことを知り、母とも話すことがあります。小さな小さな世界で生きていた私には分からなかった色々なことをたくさんのことを、世界を知った今、私は色々な真実と共にあなたの大きな罪を知り、それでもあなたという人を、お父さんを嫌いになりきれない私がいるのです。
好きとは難しいですね。あなたとしたいことがいっぱいありました。友達の父親の話を聞くたびに平気な顔をして、笑っていた私。シングルマザーという話になり、バカにされても平気な顔をしていた私。誰もいない夜の部屋にひとりで涙をこらえていた私。参観日に誰も来なくても平気なを顔をした私。私はシングルマザーの家庭であるということを悟られなくなるまで頑張り、今では驚かれるほどです。
逆に感謝を言うべきかな。努力ができたのはあなたのお陰ですって。
私の知らないあなたの15年を、どんなに最低でもあなたの口から聞きたい
私の知らないあなたの15年、そして私を知らないあなたの15年。長いようで短い。知らないことだらけのあなたと私。
母から、祖母から聞かされる話のあなたは最低な姿でした。
でもあなたの口からも聞きたい。どんな内容であれ。
でもね、一番聞きたいのはあなたは私をどうみているのですか。わたしはそれが聞きたくてたまりません。うわべではなくあなたの本心が知りたい。
ねえ、大好きで大嫌いなお父さん、あなたにとっての私はなに?