生理が来てない私は「今日二日目なんだよね」に無性に腹が立った

「アタシ、今日二日目なんだよねー」
いつもなら聞き流せたこの言葉に、今日は無性に腹が立った。鍵のかかった個室の内側で、無意味に持ち込んだポーチを握りしめた。

高校生になったのに、私にはまだ生理がこない。友達がみんな月に一度ポーチを持ってトイレに行く。そこで、今回は重いとか、彼氏がわかってくれないだとか、私にはわからないことを大きな声で話している。慣れた日常のはずなのに、扉の向こう側で話す彼女の声が、今日は一段と大きく聞こえた。

「生理とかマジいらな~い」
じゃあ、ちょうだいよ。扉を開けてそう言ってしまおうか。なぜかはわからないが、今日の私には余裕がなかった。喉まで言葉が出かかったが、私には、私を知らない彼女達に八つ当たりする勇気も度胸もなかった。

鍵を開け、重いドアを押す。もやもやだけが膨らんだおへその下をさすりながら、ホッカイロと、使ったことのないナプキンの入ったポーチをもって彼女たちの横を通り過ぎた。

今日は何となく何もしたくなくて、顧問の先生に適当な言い訳をして部活をさぼってしまった。普段まじめな私が休むと言い出したので、先生はとても心配していた。先生の、大丈夫?という甲高い声が頭の奥を揺らした。たとえこの言葉が本心から出ていたものだとしても、鬱陶しかった。ごめんね、先生。

みんなに当たり前に来ているものが私にはなくて、劣っている気がした

家までこんなに距離があっただろうか。いつもの帰り道のはずが、あまりにも長い。
やっと着いた家のドアも、体重をかけないと開かないほど重い。玄関前の階段を上る気が起きない。頭の中でずっと響いている彼女達の声のせいか、頭がガンガンする。

何とか階段を登り切ってベッドに腰掛けると、もう二度と立ち上がれないのではないかと思うほど腰が重くなった。彼女たちの声は、まだ頭の中に響いている。
なんで、みんなが当たり前に持っているものが私にはないのかな。

そう思い始めると止まらなかった。生理以外でも、私はみんなより劣っている気がして、睫毛が重たくなった。涙が流れるたび頭に鈍痛が走る。重い腰をマットレスに沈め、布団をかぶった。長い夜は、涙と共に流れた。

陽の光が瞼を照らし、目が覚めた。痛い。頭も、腰も、お腹も、重くて痛かった。
重い体を起こしてみると、下半身に違和感を覚えた。もしかしてと思い、トイレに駆け込んだ。

思っていたよりもあっけなく訪れた生理に「いらないな」と呟いた

思っていたよりあっけなく私にも生理がきた。体中の痛みと重み。私はこんなのを欲しがっていたんだ。

「……いらないな」
昨日はあんなに不快に感じた言葉を、今日は私がつぶやいている。この言葉も、誰かの心に刺さるのだろうか。重い腰を持ち上げて、朝の支度を始めた。

カバンの中のポーチが目に入る。今日からこれは、無意味じゃなくなる。ポーチをカバンに突っ込んで、重い腰を上げて家をでた。
変わったのは、あのポーチだけ。私は変わらない。これが私の当たり前に追加されるだけ。
何となく甘いものが食べたい。そんなことを思ったのはどれくらいぶりだろう今日は、シュークリームを買って帰ろう。

そんなことを考えていたら、後ろから肩をたたかれた。
「おはよー!!……って、なんか顔色悪い?大丈夫?」
「あ……おはよう。そうなんだよね、今日生理でさ……」
この会話も当たり前。驚くことじゃない。

今日から、わたしと生理は、当たり前に一緒に生きる。