浮気や不倫をする人なんてバカだと思っていた。人を傷つけてまで「幸せに」なんてなれるわけがない。
生産性がないし、リスクが高すぎる。...…私の恋は始まってはいけない。

つらい時に浮かぶのは何故だか、上司の顔だ。
面接でみた上司の第一印象は「理路整然」「完全無欠」だった。そんなことをぼんやり思った。
普段使わない四字熟語が何故浮かんだのかはわからない……。
悪いところを強いて言えば、慣れるまでは愛想がないことだろうか。
面接中、興味がなさそうに見えたその上司は、みんなに関心はあるものの、セクハラやパワハラが怖くて踏み込めない人に見える。
面接予定日後、受信された留守電にかけ直して実現した面接。
もうその時点で奇跡だから、私は落とされるんだろうと思っていた。
ところが、最終面接まで呼ばれ、上司の下で働いている。不思議なものだ。
きっかけはなんだったか。就職で初めて住む土地にきた。
それまでも、仕事内容についてだとか取り留めないやりとりをしてきた。

入社直前に入院。そこからメールのやりとりが始まって・・・

もうすぐ入社というタイミングで私は高熱を出し、1週間入院することになった。
幸いなことに大事には至らなかったけれど、初めての土地に来て、1週間経たずに入院となり、仕事開始を延期せざるを得なくなった。
私が上司に入院についてメールをしたあたりから、やりとりしている。
初めは、体調どうですか?くらいだった。
仕事で過ごした1日についての話をしたり、好きな音楽の話をしたり。時には過去のつらい経験を話したり。色んなことを話した。
今、私がしている仕事は、催し物や季節の話題を取材してわかりやすい文章にして伝えること。そして、時折、自分の興味を持ったことを取材して今抱える課題とともに伝え、世の中に投げかけること。
そんな仕事に私を採用した経緯が、最終面接後に私が送ったメールが定型ではない、私の心が見える文だったから採用したのだといつの日か聞いた。

私は上司の書く文章が好きだ。
スマートでいてわかりやすい。私の書く例えばかりの文章より、スッと心に入ってくる。
だけど、上司は、私の書く文章は心が感じられて好きだと言ってくれた。
ある時、いじめられていた時に守ってくれた友人について書いた文章を送ったら泣いたと教えてくれた。
「できたらでいいから、あなたの書く文章を読んでみたい」と言われて、送って手直しなどされて戻ってくるようになった。
そこからは少し長めな文章を送っている。
仕事ではないのに、いつも丁寧に色分けなどして手を加えて返してくれた。
やっぱり、私は上司の書く文章が好きだ。
それだけだった。それだけだったはず、だった。

彼の言葉に一喜一憂。始まってはいけないのに、なぜ優しくするのだろう

仕事で失敗続きで怒られてばかりいた時。
自分のできなさに落ち込み、一人で泣いているのだけど、それでも、応援してくれる人のためにも頑張らなければ、という文章を送った時だったか……
上司はこんな内容をいった。
「一人で泣いてると思うと胸が痛くなります。文章でもいいから、私でよければ話してください」
……どうして、優しくするのだろう。誰にも言えないから一人で泣いていただけだ。
大人だし、人前では泣けないから一人で泣いていただけなのに。
上司は妻子ある人だ。だからこそ、始まってはいけないのだ。
きっと上司は、私のことはなんとも思ってなんていない。
「綺麗」とか「この部署内で特に成長を願ってる一人」
と言ってくれても、そんなの誰にでも言えることなのだ。
ただの「部下1」なのだ。
時折、セクハラを過剰に気にする上司が突き放すような言葉を言ってきたりする。
そんな時、私一人が、上司の言葉に一喜一憂する。

私は、上司が大切にしている妻子を泣かせるような、薄汚い人になりたくない。
上司がそんな人だとも、思いたくない。
最近はなるべく、上司に話さないようにしている。
これが、私にできるこの気持ちを抑え込める方法だから。……少し、時間はかかりそうだ。