すっぴんのお風呂上がり。自分の顔を鏡で見た時、これが本当の自分だと思う。
人と会う時はメイクをする。しかし、私は心もメイクしている。私にとって、メイクは可愛くなるためにするもの。つまり、自分をよく見せるため。
私は、母にだけは絶対に自分を「可愛く」見せないとダメだと思っている。だから実家では、顔のメイクは落としても、心のメイクは落とせない。
母が2つ下の妹を思う気持ちと、私を思う気持ちは明らかに違っていた
私は幼い頃、父方の祖母によく懐いていた。母は、それが悔しかったようだ。幼いながら、母が私に対して思っていることを感じ取っていた。母が2つ下の妹を思う気持ちと、私を思う気持ちは明らかに違っていたように感じる。
物心ついた時、「お母さん、私のこともぎゅーして!!」と言った事がある。その時の母の回答は衝撃的で、とても辛かった。「まきはどうせ、おばあちゃんが好きなんでしょ?お母さんじゃ嫌なんでしょ?」そう言って私ではなく、妹を抱きしめた。妹は勝ち誇った顔で、悲しむ私に微笑んだ。
私は「そんな事ないのに…私もお母さんのこと大好きだよ!」と心の中で何度も叫んだ。でも、言えなかった。私は、自分の事を愛してくれない悲しい気持ちを、物に当たって発散させることしか出来なかった。
妹の誕生日にお出かけをした事がある。サプライズでテーマパークに連れて行ってくれた。私のお誕生日にも行くのかな? と密かに期待していたが、お家で過ごした。サプライズが起きなかったその年の誕生日の夜、布団に潜って泣いた。今でも居間に飾ってある、テーマパークで描いてもらった似顔絵を見るたび、あの時の気持ちを思い出して、胸がキューという。
母の日記を読み、私が感じていたことは「間違いじゃない」と思った
小学校高学年時、昔の母の日記を隠れて読んだ。「おばあちゃんにばかり懐く、まきのことが可愛くない。〇〇(妹)は私の顔を見ていつもニコニコしてくれる。それが唯一の癒し」と書かれていた。
やっぱりそうだったんだ。幼い頃感じていた、「妹の方が愛されている」感覚は間違っていなかったんだ。そこから、私は母に本音を言わなくなり、心をメイクするようになった。
小学生の頃、妹はバスケを習っていた。土日になると、毎週バスケの練習や試合に父と母は出かけて行った。私は、毎週お留守番。寂しかった。悲しかった。残された家で泣いた。それだけでは気持ちが収まらずに、妹の筆箱をこっそり床に投げつけた。一人ぼっちの週末が来るのが嫌だった。
一生懸命、私も母に愛される方法を考えた。習っていたピアノの練習を頑張った。毎月、高い月謝は払ってくれても、妹のバスケのように熱心に応援してくれることはなかった。周りから見たら習い事をさせてくれて、幸せだと思うかもしれない。でも、私はお金ではなく、愛情をかけて欲しかった。ただ「あなたのことが大好きだよ」と、心からの言葉と愛情で抱きしめて欲しかっただけ。
母が私を見てくれるようになったのは、有名大学に合格してからだった
母がやっと私の事を見てくれたのは、高校生になった時だった。学校の成績が常に上位だった事から、三者面談で担任の先生に「地元の短大では勿体無いですよ!もっと有名大学目指せますよ!」と言われたことがきっかけ。
見事にそれなりの大学に合格。そこから母は、外で私の事を誇らしげに話す様になった。「やっと私の事を認めてくれた!」と安堵した。そこから更に、家族の前で心を厚化粧するようになった。
現在28歳の私。結婚なんて、まだまだ考えられない。母は、未婚の私をきっと認めていない。母にとって今の私は「可愛くない」のだ。しかし、7月に妹は結婚式をあげる。結婚して、自慢の娘になる。妹はきっと、あの時の勝ち誇った顔で、私のメイクされた心を見て、微笑む。
いつかは、母にすっぴんの私を見せられるのかな。見せたい気持ちはあるけど、20年以上メイクをしつづけた厚化粧に、どんなクレンジングを使ったら良いのだろう? メイクを落としたら、母との心の距離も近くなるのかな?