デート中にプリクラを撮ることになって、いくつもの丸いライトにびかびかと照らされていた時のことだった。
シャッターが切られる前の、底抜けに明るいカウントの声と共に彼の影がふっと落ちてくる。なんだろうと見上げた彼の表情は、逆光のせいでよく見えなかった。
ただ、向き合った彼がわたしの肩をつかみ、少し傾いた顔がぐっと近づいてきて、「あ、キスされる」と察した瞬間。反射的に顔を逸らしてしまっていたことに、キスされてから遅れて気がついた。

「キスプリ」ができ、いつも通りの彼を見てようやく別れようと決意

唇の端。ぎりぎり触れないくらいの位置に彼はくちづけて、何も言わずに身体を離した。触れていた熱が離れてようやく、無意識に詰めていた息をこっそりと吐く。

撮ったプリクラはまさしく「キスプリ」というやつで、口にはしてないよ、と言っても誰も信じてくれないであろう出来栄えだった。
落書きもせずそのまま印刷したプリクラと、まるで何事もなかったかのように振る舞う彼を見て、わたしはようやく別れることを決意したのだった。

高校に進学してできた彼氏は、別に好きなわけではなかった。
当時はちょうどLINEが流行り始めたころで、ぽつぽつとやりとりする中で相手から好意を伝えられてしまったから。
とくべつ格好良くもない。背も、身長の低いわたしと並んで少し身長差ができるくらい。そんな彼と付き合うことを決めたのは、彼がとてもいい人だったからだ。

好きになれない罪悪感と、優しい彼へのストレスという最悪な循環

こんなに優しくていい人を「好みではない」という理由で振ることはどうしてもできなくて。好きになれるかもしれない、というわずかな可能性にかけて告白に頷いた。
日々連絡を取り合い、放課後に手を繋いで制服デート、土日には少し遠出をしてみたりなんかして。
彼と過ごす時間が増えるのに比例して、友人と遊ぶたびに愚痴をこぼすことが増えた。

今なら分かる。わたしは「彼の想像するわたし」を演じすぎていたし、「彼氏がいる」というステータスのために彼を利用していたところもあった。とにかく、全体的に彼に対して失礼極まりなかった。

彼を好きになれないことへの罪悪感は日に日に募って、その分彼に優しくして、そしてまたストレスが溜まる。最悪な循環がわたしの中でできあがっていた。
それを壊したのが、彼にキスされかけたことだ。
ファーストキスを大事にとっておきたいだとか、こんなシチュエーションでしたいとか、憧れがあるわけではなかったけれど。

付き合い続ければ、ただ手を繋いでお散歩するだではないという事実

さすがにプリ機の中では抵抗があったし、巷で流行っていたキスプリにもともと否定的だったのもある。撮影のためにはじめてのキスをするなんて、もっと嫌だ。
無意識に彼を拒否していた自分に気がついた時、わたしは彼を好きになることを諦めた。

というより、彼と付き合い続けるとこの先、ただ手を繋いでお散歩するだけじゃいられないという事実に遅まきながら思い至ったのだ。
キスだってハグだって、もっと先のことだってするかもしれない。それらを想像しなかったくらい、穏やかな付き合いをしていたから考えてもみなかった、というのは言い訳だろうか。

そしてその先を考えたとき、どうしても、彼とはできそうにないと思う自分に気がついてしまった。
「できるかもしれないけど嬉しくはない」と言ったほうが近いかもしれないけれど。
これ以上付き合い続けるのは彼により失礼だと悟ったわたしは数日後、彼を呼び出して別れを告げたのだった。

全く次回に生かせず同じ失敗を繰り返すのは、また数年後の話。