何気なく彼へ言った事への返事が、別れを意識するきっかけに…

「それを聞かされる俺の方が嫌な気持ちになってるよ」
彼は真顔でそう言うと、網の上の肉に視線を落とし、トングで焼き加減を確認し始めた。
私は曖昧に笑ったが、心の中では、「あ、もう無理だ」と思っていた。

大学4年生の頃に就活で知り合い、付き合って4年を迎えようとしていた。
コロナ禍で外食をすることも減り、たまには豪華に焼肉でも行こうかと、彼が予約してくれていたのだった。

ほぼ毎週末に会っては、彼と他愛もない会話をする時間が私はとても好きだった。話すことがなくても、彼との間に流れる沈黙は心地よくて、気まずいと感じたことがなかった。
その時は、私が実家に帰った際に、家族のとある一言で傷ついたという話をしていた。
「なんでせっかく実家に帰ったのに、嫌な思いしなきゃいけないんだろうね」
何気なく言ったことへの返事が、別れを意識するきっかけになった。

自信のない私を見下す彼。そう気づいた瞬間彼への気持ちは冷めた

私は、ただ悲しかった気持ちを聞いてほしかった、認めてほしかっただけだったのに。
彼のこういう態度に、私はずっと傷ついてきたのだ。
思い返せばこの人は、私が辛い時に味方になってくれたことがないじゃないか。

新卒で入社した会社の新人研修があまりにも辛くて、「死にたいよ」と思わずつぶやいた時、
「死にたいっていうやつは本当には死なないよ」と言われた。
新人研修が終わり、自分の仕事が始まったばかりの頃に、会社の人のノリにあまりついていけないという話をした時、「つまんないやつだって思われてるだろうね」と言われた。

この頃の私は、隠れて泣いていた。彼を好きだという気持ちが大きかったせいで、こんなことで傷つく自分が悪い、彼なりに励ましてくれているのだ、とすら解釈していたような気がする。涙が出るのは、自分の心が拒絶している証拠だったのに。

この人は劣等感が強いから、自信のない私を見下すことで自分の心を満たしているんだ。
そう気づいてから一気に冷めた。
私に歩み寄ってくれない人に、私が歩み寄る必要はない。

何のしがらみもなく前へ歩む。大事なのは自分の気持ちを尊重すること

私は自分の心に嘘をつき続けていたことを反省した。ずっとSOSを出してくれていたのに、悲鳴をあげていたのに、無視してしまっていた。
彼と別れてからは、自分の心の声をよく聴くことをモットーに生きることにした。お互いを高め合える友人と会ったり、健康的な食事を心がけたり、習い事を始めたり、美容院に行ったり、服や化粧品を新調したり。自分を大切にする方法はたくさんあることを学んでいる最中だ。

彼と付き合っていた時には、楽しいこともたくさんあったけれど、どこかでずっと、首根っこを掴まれているような感覚があった。自分の気持ちを尊重するという、生きるコツを少し掴めた今は、何のしがらみもなく前へ歩んでいる感覚がある。

充実した日々を送っていたら、LINEの通知が来た。誰からだろうと確認すると、あの焼肉屋の公式アカウントからのクーポンだった。
もう彼を思い出して泣く私はいない。今の私には、私自身という、揺るぎない味方ができたのだ。