傾聴の授業で、"共感力"は人の信頼を得るのに何より大切な力だと教えてもらった。
だから悩み相談を受けたら、相手の気持ちに寄り添って、
「うんうん、そうだね」
「私もそう思うしその気持ちすごく理解出来る」
と言えば、相手の信頼を手っ取り早く得ることができるし、辛い時に誰かに共感を求めるのは人間の本能なのだと。

「分かるよ、私も一緒だよ」 。最強の共感ワードで友人に寄り添った

高校生の頃お世話になったことをきっかけに、カウンセラーを目指し、大学院までストレートで進める大学へ入学した。

心理学の授業は楽しいもので、日頃の生活に役立つものも多く、授業で学んだ通りに、初対面の人には相手の言葉を同じように繰り返して親近感を持たせたし、悩み相談をしてくる友人には、
「分かるよ、私も一緒だよ」
なんて最強の共感ワードをかけていた。

ゼミも決まり、大学3年生の春。
大学内の女の子に告白された。

以前から彼女の心は男の子で、女の子が好きだということは知っていたし、それにまつわる悩み相談も受けていた。
そしてその度、お決まりの如く例の共感ワードを連発していたし、なんとなくだけれど彼女の痛みを理解している気でいた。
ところが、いざ告白され、実際私は彼女の何もわかっていなかったということに気がついた。

彼女は性格も穏やかで面白い。
真面目で見た目も綺麗で、仮に彼女が男の子であれば付き合っていたかもしれない。

告白されて気づいた。私は彼女の心の中を何も分かっていなかった

つまりは、彼女が女の子であるから付き合えないというのが私の答えだ。
彼女は今までこうしていろんな恋を終わらせてきたのだろう。
生まれ持った性別のせいで、見た目や性格なんかと違って努力ではどうしょうもない理由のせいで。

今まで 「分かる~」と一言で片付けていた事実たちは、他人事から自分事に変わった瞬間、姿も大きさも変えて私の前に現れ、私は彼女の心の中を何も分かっていなかったんだと気付かされた。

一生守りたい人ができても、戸籍上守れないと言っていた彼女の真意は?
仮に好きな人と一緒になったとして、結局のところ何かの形で傷つけてしまうと言った彼女の考えていた未来は?
両親は自分を隠そうとするんだよねと言った彼女の心の傷は?

彼女の悩みを私はきっと一生理解できない。
だって私は心の底から女の子で、男の子が好きだから。

悩みの大きさも心の強さも人それぞれ。他人の悩みは理解できない

彼女に限った話ではない。
結局のところ、育った環境も置かれている環境も、悩みの大きさも心の強さもみんなそれぞれだから、他人の悩みを理解できるなんて絶対に不可能なのだ。

自分には見せていない姿や、自分の知らない思いもきっとたくさんあって、そのたくさんの感情から絞って話してくれた言葉の一部だけを耳にして、自分の小さな見聞の中から想像を膨らませて、
「分かる」
という言葉を口にしていた自分の軽はずみな発言を猛省した。
何度も言うが、結局相手の悩みなんて理解できないのだ。

あの日、人の悩みを聞くことの重さを知った私は、人から相談を受けることが怖くなり、カウンセラーへの道をスパッと諦め、現在はカフェ店員という悩みとは縁遠い世界で働いている。

それでも共に働く大学生の子達から人生の先輩として相談を受けることもあるが、「理解できない部分がほとんどである」ということを理解した上で話を聞くようにしている。
もちろん、
「分かるよ、それ」
なんて言葉は絶対に使わない。