iPhoneがご親切に1年前の写真をお知らせしてくれる。
画面に映った写真が目に入り、心臓が掴まれたみたいに痛み始める。
写真に写るわたしはとても幸せそうで、顔を寄せ合い隣に写るあなたも、同じように幸せそうに微笑んでいる。
久しぶりに見たあなたの顔に懐かしさを感じて、あなたが過去になったことを改めて実感する。
「運命かもしれない」なんて本気で思えたくらい特別だったあなた
お互いの間に緊張と遠慮が消え、安心感が芽生え始めてきた去年の夏、コロナの影響でわたし達はほとんどの時間を一緒に過ごした。
無情にも幸せだった夏はすぐに過ぎていき、夏の終わりとともにわたし達の恋も終わりを迎えた。
今年の夏は、思い出の中のあなたにしがみついて、退屈で心許ない毎日をひとり過ごしている。
運命なんて言葉を馬鹿にしていたわたしが、初めて「これが運命なのかもしれない」なんて本気で思ったくらいあなたの存在は特別で、これからもあなたとずっと2人で生きていけると思った。
あなたと出会って、初めて「満たされる」という感情を知った。
あなたとならどこに行っても、何をしていても楽しくて、出会えたことを何度も心の中で感謝した。
思いだすのは、一緒にいることがあまりにも自然だった毎日
休日、一緒に散歩する朝が好きだった。
夕飯の献立を一緒に考える夕方が好きだった。
夜寝る前に、あなたに寄りかかって映画を見る時間が好きだった。
大切な話しをするとき、手を握ってくれるあなたが好きだった。
わたしの手料理は、いつだって大げさに褒めてくれるあなたが好きだった。
拗ねた時に唇を尖らせるあなたは、子どもみたいで愛おしかった。
あなたの大きな手も、柔らかい髪も、優しい眼差しも全部、大好きだった。
好きな色や食べ物、照れた時に無意識に前髪を触るような、取るに足らない小さな癖でさえ、あなたのことならお見通しだった。
それなのに、あなたを繋ぎ止める方法はわからなかった。
一緒にいることがこんなにも自然だったのに、あまりに突然、あっけなく、あなたは私と離れることを選んだ。
あなたが口にした言葉で、あなたの人生に私はいないことに気付いた
別れを告げられた日。
あなたが口にした「幸せになってほしい」という言葉で、あなたの人生にわたしがいないことに気付いた。
「幸せにしたい」と思っていたのはわたしだけだった。
あなたと別れて、あなたと出会う前、自分がどうやって生きてきたのかしばらく思い出せなかった。
これから先のわたしの人生に、あなたがいないことが受け入れられなかった。
日常生活もままならない数ヶ月が過ぎ、浮き沈みを繰り返しながら、やっと少しずつ自分を取り戻してきた。
今までの人生で1番幸せだった夏から1年。
今年の夏、わたしの隣にあなたはいない。
そんなセリフも陳腐な歌詞みたいで、あなたとの出来事だって、言葉にしてしまえばありきたりなものになる。
特別だった時間も、幸せだった日々もすべて幻に感じる。
今年の夏が終わったら、この感情からどうか解放されますように
過去に囚われたわたしは、毎日死にそうに叫ぶ蝉を自分と重ねて、あなたのいない人生なら
いっそなくなってしまえばいいのに、なんて縁起でもないことを考える。
あなたがいた日々からいまだに抜け出せないまま、あなたを想って、退屈に過ぎていく今を耐え忍ぶ。
もうすぐ、あなたと別れた夏の終わりが来る。
「去年の今頃は」と思い出しては苦しくなる夏が終わる。
1年経っても、全然前に進めていない自分が嫌になってしまうけど、せめて今年の夏までは、あなたとの思い出にしがみつくわたしを大目に見てほしい。
今年の夏が終わったら、あなたを想う呪いにも似たこの感情から、どうか解放されますように。