これだと決めて着たものではないけれど、後になって考えてみれば大切な時はいつも黒地に小さな花の付いたワンピースを着ていた。
初めて大きな仕事を任された時、彼と初めてのデート、彼の両親へ挨拶へ行った時も
いつもあのワンピースだった。
偶然目に留まり、袖を通すと決まって何かが起きるワンピース
あのワンピースに袖を通すと不思議な程に自分らしくいられる
世界中の誰より今だけは一番輝いてるとさえ思えた。
その極めつけは離婚届を提出しに行ったあの日。
紆余曲折を乗り越え、あのワンピースを着て自分らしさを取り戻した私に怖い物は何もなかった。
世界が輝いて見え、全てが美しく感じた。諸々のしがらみから開放された安堵感だけで片付けられない程心が踊ったのを今でも鮮明に覚えている。
風に揺れるとスカートがふわりと舞い上がり、胸元の花はキラリと光る
シンプルな中に大人っぽさと少しの可愛さを持つワンピースに一目惚れして購入したのはもう何年前だろう……
大切な日だから着る一着があれば、大切な日に変えてしまう一着もある。
本当にこれは不思議で仕方がないのだけれど、乱雑に扱っている訳でも散らかっている訳でもないのに普段は目にも止まらない。ただどうしてか、ふと目に留まり「あぁ、久しぶりに今日はこれを着ようかな」なんて袖を通すと決まって何かが起きる。
無くしたと諦めてから数ヶ月。探したはずの段ボールからワンピースが
引越しをした際、どこを探しても見付からない時期があった。間違えて捨ててしまったのか……無我夢中で探し続けたが一向に出て来なかった。
あの時の不安感と言ったら、まるで相方をなくしたようなとても言葉で表すのは難しい程の喪失感
もう仕方がないかと諦めてから数ヶ月後、何度も探したはずのダンボールから見付かったワンピースに歓喜した。
早速袖を通し出掛けたあの日、人生初のスクラッチくじ当選
いつも行列で入れなかったお店にすんなり入れて、イケメンに声をかけられた(道を尋ねられただけ)。
この久しぶりの高揚感
あぁ、やっぱりこのワンピースは相方だ。おかえり相方
「諦めかけていてごめんね、もっと早く見付けられなくてごめんね」と服に謝ったのは、後にも先にもこの時が初めてだったと思う。
次々とスペシャルを巻き起こすこのワンピースになんの因果か自分にもよく分からないけれど、この服だけは何年経っても手放す事が出来ずにいる。
いつも私に自分らしさと勇気をくれ、何でもない日をスペシャルな日に変えてしまう魔法のワンピース
これからもこの魔法に幾度となく助けられるのだろう。
そう考えただけで少し高鳴る胸の鼓動に自然と笑みがこぼれる。
ワンピースにプレッシャーをかける私。これからも大切にしていこう
たまにありがとうの意味を込めて少し良い柔軟剤や洗剤を使ってみる
……というのは建前で、内心ではいつも「次はどんな素敵なことを起こしてくれるの?」と日頃このワンピースにプレッシャーをかけている私(笑)
そのせいか最近は中々スペシャルな日はないけれど、今での功績を称え大切にこれからもずっと一緒に居たいと思えるそんな一着。
これを書きながら私はふと、どこで出会うかわからないそんな特別な一着と人生を照らし合わせている。
一人一人の出会い
一着一着の出会い
全てが今の私を作っている。
だからこそ大切にしていかなくてはいけないし、私も誰かにとって特別な一着の様な存在になれたら良いななんて煙草をふかしながら考えている。