まだカードも持ったことがなく、ネットで洋服を買うことにまだ抵抗があったころ、同窓会の服に悩み、カートに入れては翌日また戻すことを繰り返しながら、何日も悩んだ末にやっとの思いでタイムセールに合わせてワンピースを買った。もちろん代引きで。
一度も着ることなく捨てるのは気が引ける。でもやっぱり違う
着る目的は同窓会に向けてだった。ただそれだけだった。クリックした服が数日後には家に届く。世の中はこんなにも便利になっているのか。少し心を浮つかせながら、届いた服を早速開けてみた。
表に書かれたサイズに合わせたはずなのに、鏡の前に立つと、想像していた服とは全く違う。これだからネットは怖い、なんて思いながらその服はタンスにしまい、この年再び陽に当たることはなかった。
あれから季節は一周し、洋服整理をしていると、あのワンピースが目に入った。一度も着ることなく捨てるのはなんだか気が引ける。もう一度鏡の前に立つ、やっぱり違う。またタンスにしまう。
ワンピースはすでに床の上。名前も知らない人の前でお披露目
また季節が周ったころ、ついにあのワンピースに出番がやってきた。悩みに悩んで買ったワンピースは同窓会ではなく、初対面の見知らぬ人の前でお披露目することとなった。指示はこう、「下には何も着てこないでね」。
ワンピースは今、見知らぬ人の目の前にある。さっきまで身に着けていたはずなのにすでに床の上。洋服は自身を着飾る一つに過ぎない。わかってる。だけどあんなにも悩んで買った服、初めて人前で来た服が一瞬にして出番を終えた姿を見たとき、何かが冷めていった。それは今、目の前にいる人との関係のようだった。
あの人とはそれきり、名前も知らなければ電話番号も知らない。知っていることはニックネームと、あの日この目で見たことのみ。アプリが消えてしまった今連絡をとる方法は何一つない。
あのワンピースを見るたびに、変わってしまった自分を思い出す
この先あのワンピースを見るたびに、あの日のことを思い出すことがあるのだろうか。ただ一つ言えることは、あのワンピースを見るたびに、私自身が変わってしまったことを思い知らされる。
カードを持ったことがなかった私は、今では口座を複数持ち、クレジットカードは数枚、ネットショッピングは当たり前となった。純粋な心は黒く汚れ、クレヨンのように色を重ねても再び綺麗な色を取り戻すことはできなくなった。
一体何がこんなにも私を変えてしまったのだろうか。このワンピースをこの先もう一度着ることはきっとない。タンスからクローゼットに変わった今、季節関係なく家にある洋服は全て見えるように収納している。月日が流れ、どんなに新しい洋服が入ってきては着ない服を捨てて行っても、あのワンピースだけは残っている。
着ることはないが、見るたびにあの日のことではなく、変わってしまった自分を思い出させ、初心を忘れないことを思い出す。着ることもなければ捨てることもないワンピース。今日もクローゼットに差し込まれた日を浴びながら、私に何かを訴えている。いつか捨てる日が来れば、きっとその日は人生の再出発の時だ。
未来の私へ、あのワンピースは今どうなりましたか。