匂いの感覚は人それぞれ。そして、どんな匂いにも記憶があります。街で通りすがりに見つける匂いに気づくのは、記憶があるからです。自分から探すよりも通りすがりに見つける忘れられない匂いには、何か美を感じます。

匂いの感覚が敏感な私。そんな私が忘れられないのは、お父さんの匂い

ある人には不快な匂いなのに、ある人にとっては好きな匂いだったりします。それは記憶の違いが生じているから、匂いの感じ方も違ったりするのだと思っています。もちろん、別の理由もあるかもしれません。
私の匂いの感覚は少し敏感な気がします。匂いの温度感や形も感じる気がします。それも交えて、私の忘れられない匂いをお伝えしたいと思います。私にとっての忘れられない匂いは、木と汗が混ざって、太陽で乾いた匂いです。私のお父さんからの匂いです。
お父さんは大工です。家族は母親と兄、妹、弟の6人です。そんな家庭の父親で、毎日木材と見た目よりも重い機械と働いています。50歳を過ぎた今でも、現役大工の素晴らしいお父さんです。

お父さんの木と汗の乾いた匂い。リラックスできて幸せ

私が小学生の頃くらいからの記憶です。学校から帰り、晩御飯ができるまでの時間にうとうとしていると、車の音で目が覚めます。お父さんが帰って来た合図でした。
他の家族も音は聞こえていますが、毎日玄関の鍵を開け、「おかえり」のお出迎えをするのは私か弟だけでした。疲れた顔をしながらいつも返事をしてくれました。普通に返してくれる「ただいま」もあれば、訳の分からない「うわあ゛ぁー」だったり、兄妹はあまりコミュニケーションを取らない分、何か特別な気分になっていました。
そんな瞬間と同時に感じていたのが、木と汗の乾いた匂いです。かぐ度に、全身からの木の匂いは、とても落ち着きました。奥行きが深い地平線みたいな匂いでした。どんな人でも、山の木の匂いをかげば、自然とリラックスします。そんな匂いを毎日感じれる自分はとても幸せだと思っています。

木と汗と太陽。お父さんへの尊敬が詰まった特別な匂い

汗の匂いには、尊敬が沢山つまっています。湿った感じの三角っぽい匂いでした。暑い夏も寒い冬も力のいる仕事で、外で作業する事もあります。私にはやった事のない仕事で、これから自分がする仕事とは違っています。
ですが、何度か父親の職人姿を見る機会がありました。大きな木を運んで、大きな壁を起こして、高い所に登って、危険だけどパワフルでした。毎朝早くて、何もかも尊敬でいっぱいでした。
もう1つは太陽の匂い。これは特に暖かくなった夏に感じました。からっとして丸みのある匂いです。外にいる環境だからこそ感じる特別感のある物でした。そんな3つの要素が集まって、色んなストーリーが詰まった素敵な匂いでした。
何気なく毎日を過ごしていたら、五感は薄れて行く気がしますが、記憶と思い出の詰まった匂いは長く続き、ふとした瞬間に自分の楽しく、良い思い出を写せます。
好きな匂いは皆違います。誰かが嫌ってる匂いで、聞くだけじゃ伝わらない匂い、私の忘れられない匂いは木と汗と太陽の尊敬とかっこいいが詰まった、街でも見つけにくい特別な匂いです。