ものごころついたときから、文章を読み書きするのが好きだった。
「ー将来は出版社で働きたい」
いつのまにか当たり前にそう思っていた。
しかし、就活中だった二年前、とある面接官に言われた。
「あなたがしたいのは、出版社の仕事というより実際に自分が書く仕事の方かもね」
私がしたいのは自分自身が書く仕事。心の隅ではわかっていた
たしかに、書く仕事というのは作家やエッセイストの仕事で、厳密には出版社の人間の仕事ではない。出版社の仕事は、例えば作家さんが書いたものを世の中に出せるように整えたり、読者の手に届く環境を作ったりする。「書く人」と「編集する人」「売る人」は明らかに違う。
少し考えればわかることをわかろうとせず、大人になっても尚、ものごころついた頃からの憧れに重点を置いて、ざっくりと「自分は出版社に就職したいのだ」と思い込み続けていた。私がしたいのは出版社の仕事ではなく、自分自身が書く仕事。面接官に言われる前から心の隅ではわかっていた。
自分の本当の気持ちとちゃんと向き合えなかったのは、卒業後、フリーターになって所謂"モノカキ"を名乗ったり下積みをしたりする勇気は、さらさらなかったからだ。そんな気持ちでダラダラ面接を続けていても内定なんて出るはずがない。「出版社に就職する」以外何も考えていなかった私は、仕方なく別の業種に就職するも1年足らずで辞めてしまった。
出版社に転職し、「私がしたいのは、ここでの仕事ではない」と再確認
その後は未練がましく再度出版社の面接を受けた。私がしたいのは出版社の仕事ではないかもしれないけれど、やはり少しでも書くことや文章を近くに感じられる仕事がいいと思った。というか、やはりそういう仕事以外考えられなかった。アシスタントというポジションではあったが、就活のときには落ちたとある出版社が、私の二社目の勤め先となった。
そこで「やっぱり私がしたいのは、ここでの仕事ではないんだな」と再確認した。配属される部署や任される仕事によっては「出版社の仕事を続けたい」と思ったかもしれないけど、少なくともこの二社目があったから、私は出版社への未練や憧れを捨てることができた。今も一社目でだらだらと働いていたら、出版社への憧れを捨てきれず、今こうして一人孤独に文字を綴ることさえ耐えられなかったかもしれない。
会社としてみれば、私みたいなやつを雇うのはたまったもんじゃないだろう。まるでお試しみたいに仕事を始めて、そして辞めて、まるで気分はキッザニアだなと思われても仕方がない。でも、若くて未熟な私は私のために試行錯誤して、前に進んで行かなくてはいけない。
現在働いている三社目は、書くこととは何も関係がない。でも、愛犬と一緒に出社ができて、長年渇望していた一人暮らしが実現できる職場だ。
この選択に自信を持つには早いけど、就活中の過去の自分に今伝えるなら
正直、今日まで自分がしてきた選択に自信を持つには、まだちょっと早い。軸だってブレブレのままここまできてしまった。でも、今の私が就活中の過去の私に伝えたいことならいくつかある。
まず、正社員として仕事を選ぶなら「好きなことに近いか」より「続けられるか」を重視した方がいいかもしれない。仕事は生活に密接に関係していて、生活は続いていくものだから、仕事も続けられるものがいい。
例えば、長年したかった一人暮らしを実現できる職場。自分で働き、自立した生活を維持することは私が仕事を続ける充分なモチベーションになるはず。
次に、どんな仕事に就いても文章を書くことや本を読むことは、私と生涯密接な付き合いになるだろうから安心してほしい。誰かに強制されなくても自然とやってしまうことだから「好きなこと」なのだ。
好きなことは仕事にしなくても勝手に続ける。やめられない。出版社に就職できなくても全然絶望しなくていいよ。
「書く仕事をしたい」と芽吹いた気持ちを、これからの私が育てる
そして最後に、そもそもあのときの私は新卒で無理に正社員を目指す必要はなかったと思う。たしかに今の日本で新卒ブランドは貴重だけど、だからこそ正社員になることに拘って無理して他の仕事を選ぼうとせず、モノカキの卵を自称する勇気をちょっと持ってみても良かったかもしれない。
現に今日もこうして、拙いながらも、仕事の合間を縫って文字を綴っているのだから。好きなことなのだから。自信を持って。
「出版社の仕事じゃなくて、私自身が書く仕事がしたい」
就活時代の私の中に小さく芽吹いた気持ちを、当時の私は上手く摘んであげられなかった。でも、これからの私が育ててあげることはできるのではないかと思う。