小学生の頃、寝静まった夜に隣の部屋から声が聞こえてきた。
「ねぇ、お姉ちゃんはさ、自分のこと好き?」
「え~、そんなこと考えたこともないなぁ。うーん……嫌い、かな」
それは、私の母と、母の妹の短い会話だった。
大好きなママが自分を自分で嫌いだなんて、どうしようもなく悲しい
そのとき私は幼いながら、どうしようもなく悲しかったのを覚えている。
「私の大好きなママを、自分で嫌いだなんて言わないでよ」
心でそう強く思った。
同時に、私は自分のことが好きなのかどうかも考えた。
当時勉強はあまりできなくて、泣き虫でおっちょこちょいだったけど。
美術は正解がないから楽しくて、ママが得意な絵を、自分も得意だという部分が好きだった。
ママは料理上手で、裁縫も得意、毎日学校に行く前にヘアアレンジをしてくれたり、可愛いワンピースをよく着せて「可愛い」と言い、たくさん写真を撮ってくれた。
私の中では誰よりも自慢の母だった。
その母の元に生まれたということが、誇らしいと今でも思える。
今は亡き母も、私の周りの友達が「うらやましい」と言うほどにしっかり母をしてくれていた。
そして時は流れ、現在、私は23歳。社会人5年目だ。
おっちょこちょいな所は相変わらずで、人並み以上に仕事で失敗した。
しかし、失敗というのは経験値でしかないと今は思える。
失敗を一度もせずに成功した人よりも、 失敗を通して成功した人のほうが失敗をした人の痛みや苦しみが理解できて、人に寄り添える心が育つ。
だから、私は自分の嫌いで恥だと思っていた「おっちょこちょい」な部分が今では結構愛おしくて好きだと思えるし、可愛くておすすめだよって言っちゃう。
人って、自分を許せる分、失敗をした人に寛大に接することが出来るのかもしれない。
優しい上司の笑顔が消えたとき、私の中の「男気」が動き出した
そして新しく見つけたのは、自分の中に「男気」があったことだ。
幼なじみで同い年のいとこに、この前ファミレスで何気ない話をしていたとき、
「私さ、最近思うんだよね。そのへんの男より男らしくないか?って」
と絶妙な顔で言うと、いとこはあからさまに驚いて言った。
「え?……え、待って。今更?」
お?今更……??じゃあ私は一体いつから男より男らしかったんだ??とタイムラグに困惑してしまい、一周して面白くなって二人で笑った。
よくよく振り返ってみると、たしかに!という出来事をいくつか思い出した。
それは仕事での話。
私の職場の課長は、自分の好きな人にだけ優しく、私の面倒をみてくれている優しい上司には当たりが強かった。
そしてある日、
「もう……限界だよ」
いつも愚痴を言って笑っていた上司が、床に向かってそう言った。
もうそこに笑顔はなかった。闇に飲まれてしまったかのような声色だった。
目は光をなくして、生きる力をなくしたみたいに。
私は非力で、何の言葉もかけることができなくて、どんな言葉も今の上司には届かない気がして、震えながらその場に立ち尽くしていた。
そして気づいたら後日、課長に直談判しに行っていた。
自分でも制御できない程の男気ある情熱が怖いけど、気に入っている
「ちょっと、お願いがあるんです。課長が私のことをよく見て褒めてくれるの嬉しいし、頑張ろうって思えます。でも、私の上司には厳しいなって、最近思います。
叱るのも課長として大切なことだけど、それよりももっとたくさん見て、褒めてあげてほしいんです。一人の人として、認めてあげてほしいんです。
課長は、課長になる前、上司にどうして欲しかったですか?どうしてくれたらがんばろうって思えましたか?」
そう冷静かつ、しっかりと目を見て優しく問いかけると、課長は手を額に当てて、辛そうに「そうだね。」と認めた。
「正直、まだ若いのに、柚希ちゃんがそこまで会社のこと考えてるなんて思わなかったよ。貴重な意見、ありがとう。もう少し、ちゃんと見ます」
と、周りに対しての態度を改めてくれるようになったことがある。
自分でも制御できないくらいに、大事な上司や、親友が傷つくことが許せないらしい。
情熱が制御できないことを知り、自分が恐ろしくなった……。
でも、わりとそんな男気も気に入っていたりする。
その男気は時に、女性らしさに欠け、合コンでは男性に不評だった。
一般的に男性が惹かれる女性というのは「常に笑顔で何でも肯定してくれる」「褒めてくれる」「隙がある」「自分のことをあまり話さない」こんなところだろうか。
モテる事が目的なら、相手が欲しい言葉をかけることくらい、安易にできる。
誰の前でも素直な自分で。「私、私のこと大好きだよ」と言えるように
でも、私の人生の目的は「一人一人と腹を割って話す」だ。
だから自分がそう思わなければ肯定しないし、すごいと思ってないのにすごいね~なんて気持ち悪くて言えない。自分のことを話さないなら何でここに来た??出直してこい?と、わりと冷たいのかもしれないとも思う。
でも、それでいい。
ありのままでいて、「人として好き」と言ってもらわなきゃ意味がないから。
だから私は、誰の前であろうと素直な自分でいる。
自信のない人ほど、私の質問にはっきり答えてくれなかったし、中には私の性格を理解できない人だっていた。
でもそれでいい。そのままでいれば、寄って来てくれる人は「誰でもいい」ではなく「私だから」寄ってきてくれたことになる。
それが、自信に繋がっていったのだ。
そして、今では大切なパートナーもできた。
鹿児島出身で、男らしくて本当の優しさを持っている彼だ。
その彼にさっき電話で、おもしろいことを言われた。
「柚希ちゃん、俺と付き合ってだんだん男らしくなってきたよね」
「(彼氏)が男らしすぎるから似てきたんじゃない?」
「そうやね」
「もっと女性らしいほうがいい?」
「いや、もっと男らしくならんとだよ」
二人して笑うこの瞬間が、最高に好きだし、好きな人たちに囲まれて生きる今が、最高に愛おしい。
「私、私のこと大好きだよ」って、いつだって言えるように、これからも生きていくんだと思う。