あの日に戻れるとしたら、私は貴方になんて言うんだろうか。もし、あの日、正解を出せていたなら。……そしたら、今貴方は私の隣にいてくれたんだろうか。
私が困っていると、貴方はいつも隣に来て助けてくれたよね
学生の頃、好きな人がいた。それまで、淡い憧れや片思いはしたことはあったと思う。
だけど、初めて本気で好きになった相手。初めて、この人の心に踏み込みたいと思った相手。それが貴方だった。
とても優しい人だった。気がつけば、いつも一緒にいた。周りから「〇〇って稲葉のこと好きなんだろw」と言われることが多々あって、私はいつも困ったけど、貴方はいつも笑ってた。……否定しないんだ、なんて嬉しくなって、顔が赤くなり笑いかけてくれる貴方から目を背けた日もあった。
貴方はいつも私に優しかったけど、私はどうだっただろう。本当は、私も笑い返したかったけど、いつも恥ずかしくなって素っ気ない態度をとってしまっていた気がする。
貴方はいつも私が困っていると、隣に来て助けてくれたよね。私は手先が不器用で、実技の時間なんかは失敗ばかりしていた。
そんな時、貴方はいつも隣にいた。私は、それを当たり前だと思っていた。あまりにも自然に、ずっとそうしてきたから。
修学旅行の日。修学旅行の班も一緒だった。お土産屋さんで貴方はピンクの下駄モチーフのキーホルダーを買っていたね。
「かわいいね、それ」と私が言うと、照れた顔で「あ~……妹へのお土産?」そう言った貴方。「絶対喜ぶよ!!めっちゃ可愛いもん!」と私ははしゃいだ。
貴方に妹がいたのは知っていたし、貴方の妹想いな一面を知れて嬉しかった。
修学旅行終に貴方が伝えてくれた想い、あの頃の私は気づかなかった
修学旅行が終わって、帰りのバス。あ~明日からまたいつもの日常に戻るのか。少し寂しさを抱えていた私に貴方は言った。「好きです。付き合ってください」。あのピンクのキーホルダーを片手に。
私は思考が停止した。貴方が何を言っているのか理解できなかった。
「え?それ妹さんにあげるやつでしょ?も~からかわないでよ~」
ごめんね。あの時、私は本気でそう思っていたの。妹さんへのお土産で、嘘をつくなんて酷いなぁなんて少し苦笑いした気がする。
妹へのお土産。そっちが嘘なんて考えもしてなかった。それくらい私は子供だった。
あの時、貴方はどんな表情をしていたっけ? ごめん、それも覚えていないの。正直、嘘で好きだなんて言えてしまうくらい、私のことなんてどうでもよかったのかな…?なんて勝手に傷ついて、頭が真っ白になっていた。自分のことで精一杯だった。
あの非日常から日常に帰ってから、私の生活は一つだけ変わった。私の隣に貴方がいなくなった。それは周りからしてみたら、別になんの変化でもなくて、いつも通りの日常。いつもの通りの学校生活だった。
だけど、私にとってそれはいつも通りの日常なんかではなくて。私は失って、やっと気がついた。今まで当たり前だと思っていたこの関係は、当たり前ではなかったのだ。
それから半年、ほとんど貴方と話さず、というか顔もろくに合わせられないで私たちは卒業した。私たちのあの暖かい日常は、いつの間にか手からこぼれおちていた。
私たちは別々の道を歩んでいるけど、あの時貴方の想いに答えていたら
それから私、一度だけ貴方を見かけたの。何があったのか、全力疾走しているあなたの姿。呼び止めようとして、なんて声をかけていいのか分からなくて声をかけられなかった。
それからもう貴方を思い出すことも少なくなって。それから私はいくつかの恋をした。沢山傷ついて、沢山笑った。そうして私は、貴方の事を想い出に変えていった。
この前、大学の友人越しに貴方のTwitterのアカウントを知ったの。彼女と仲良さそうに写ってる写真。それを見て、少し、少しだけ。あの時に戻れたら、私はなんて答えたんだろうって思ったんだ。
修学旅行の日でも、修学旅行の後の学校生活でも、卒業して街で貴方を見かけた時でも良かった。「あの告白、本気だった?」と聞くのが怖かった。もし、冗談だったら私恥ずかしすぎるでしょう?
でも、今になって思う。恥ずかしい思いをしてでも、聞くべきだった。そして伝えたかった。貴方の想い、私の想い。きっと、チャンスはいくらでもあったのに、聞けなかったのは、言えなかったのは、私の弱さ。
今はもうあの日の答え合わせは出来ないけれど、それでも言わせて欲しい。「私、貴方のことが好きだった。幸せな時間をありがとう」
もう誰にも吐き出すことはできない想いだから、こうやって書き残しとくね。それで私は前を向いて歩いていく。貴方もどうかお幸せに。