就職先が決まって言われた言葉が刺さった。「後悔のないようにね」

2019年、9月。
就職活動が終わりを迎えた日、私は就活をサポートしてくれたエージェントに報告をした。
エージェントとは就活生と企業の間にたち企業を紹介してくれる人のことだ。就活に対する疑問も応えてくれるため、就活を支えてくれた人達の中の一人だ。
就活の終了を伝えた時彼は「おめでとう」と我がことのように喜び、
「就職したらまとまった休みは取り難いから、後悔のないようにね」
と話した。
まぁ、どこかで聞いたことがある一般的な声掛けだろう。しかし、当時の私には十分過ぎるほど、その言葉に背中を押された。
というのも、『心残り』があったのだ。

子どものころから興味を持っていた演劇。しかし、向き合えない時間を過ごした

それは「演劇」だ。
私が演劇に興味を持ったきっかけは、大河ドラマ「篤姫」の衣装だった。作中で篤姫たち多くの大奥の女の人が着ている打掛けに惹かれた。
女優になったらこんなにきらびやかな衣装を着ることができるのだ、と目を輝かせて観ていた。加えて、主役の宮崎あおいさんが輝いて見えたことは言わずもがな。
だから、子役オーディションの応募ハガキが来た時はとても喜んだ。これに応募したい!と母に告げると、「他の習い事はどうするの?」と聞かれた。当時、週一でピアノ教室に通い、週二で塾に通っていたのだ。
よくよく数えると、通えなくはない。それを当時考えてはいなかったが、ただただ憧れの一心でその後も何度かその話をあげたものの、母は首を縦に振らなかった。そのうち私も折れてしまった。
それからも二の足を踏んでいた。中学は親同士の喧嘩に巻き込まれ吹奏楽部に入部、高校では演劇部がなく吹奏楽部に入部、大学は演劇サークルに入団したものの資格勉強に時間を取られ、意欲はありつつも約10年ついぞ演劇と向き合うことはなかった。

できない言い訳をしていた私は言葉に背中を押され、あらためて動き始めた

加えて、高校生の時からとある大学の舞台を毎年欠かさず観ている。それも私の演劇への意欲を高め、同時に羨ましさを感じるものであった。
もちろん高校受験期にその大学への進学も考え、出願したが叶わなかった。金銭的な問題から、受験は一度きりと暗黙の了解になっていたこともあり一度の不合格で諦めてしまった。

いや、これらは言い訳だ。
もっと勉強すれば合格できたかもしれない。願い倒せば通えただろし、私自身が調べれば有力な情報を得ることもできただろう。
だから、言葉を貰った時「演劇に向き合いたい」と思ったのだ。二度と言い訳をしないために。
その日からバイトの合間を縫って調べること4ヶ月、とある養成所に通うことが決まった。

就活のとき以上に考えた「私とは?」。そして「女優になる」と決めた

その4ヶ月間も様々なことがあった。
緊張しやすい私はオーディションに滅法弱い。手足が震え、早口になり、頭が真っ白になっていた。合同オーディションでは他の人のレベルに圧倒され続けた。
当たり前だが、誰も彼も輝いていた。その中で私にできることは?私とは?と、就活期以上に考えさせられた。
現在は初めの3ヶ月の初期クラスを終え、その次の基礎クラスで学んでいる最中だ。たくさんの人に恵まれ、切磋琢磨しながら挑戦している。胸を張って「女優」と言うには程遠いけれど、そうなる!と決めた。

それを私は自慢したい。
これは決して大きな進歩ではない。
けれど、一歩を踏み出せたことで得られたことは大きい。
ベタだが、恐れずに踏み出したら世界はほんの少し変わるのだ。