私のスマホには一通の手紙が残っている。書いた日にちは去年の私の誕生日。
「今までありがとうございました」から始まるその手紙は、二度と読み返したくないような、重い手紙だ。
真っ暗で先の見えない恐怖に、私の心は蝕まれてしまった
大学4年生だった私は、就職活動を通して自分の弱さを知った。
面接で漂う独特のプレッシャー。日に日に増えていく「残念ながら」の文字が書かれたメール。親や友達から発せられる励ましの言葉。
そのどれもが背中にのしかかり、私は前を向けなくなっていた。
何のために今まで生きてきたのか、何のために今を生きているのか、何のためにこれから生きていくのか。真っ暗で先の見えない恐怖に私の心は蝕まれてしまった。
そんな状況にある中でも時間は止まることなくすぎ、私は誕生日を迎えた。20数年生きてきた中で最悪の誕生日だった。追い打ちをかけるように、親からかけられた言葉が私の心を貫いた。
育て方が「間違い」なら、私はここにいてはいけないのかもしれない
「育て方を間違えた」
私の人生の全てを否定された気分だった。不正解なら、間違いなら、私はここにいてはいけないのかもしれない。私は誰かの正解になるために生まれてきたわけじゃないけれど、間違いなら必要とされないだろう。じゃあ、最期くらい私が思う正解を見出してやる。
味のしないケーキを食べながら、そんなことを考えた。
私はマンションのベランダで、音楽を聴きながらこれまでの感謝を伝える手紙をケータイのメモに遺した。家族や友達の一人一人に向けて、優しい言葉たちを連ねていった。本当に私は間違いだったのか?と、全員に考えさせるくらいに優しい言葉を。
そしてベランダから身を乗り出そうとした時、聴いていた音楽が、私を引き止めた。
次々に、傷ついた私の心を溶かしてくれた素敵な言葉たち
生きてれば色々とあるけれど、限界は自分で作っている。こんなに苦しんだ日も、いつか些細なことだって話せる日がくるはず。肩を貸すから、なんでも頼っていいよ。
そんな素敵な言葉たちが次々に、傷ついた私の心を溶かしてくれた。もう一度、心を作り直して、背中の荷物を全部捨てて前を向いてみよう。もしかしたら、この苦しみから脱した時に見える景色はこれまでになく綺麗なものかもしれない。
私の正解は、この手紙と弱った心を全て溶かして、もう一度形をとって、作り直して、前を向くことだ。誰に何を言われたっていい、私は私の人生の主人公として生き続けるのだ。
そう決めた私は就活を無事に終え、今は社会人として働いている。嫌なことも辛いこともあるが、あの日々に比べると小さなことに感じられる。
あの日、私を引き止めてくれた曲をライブで聞いて、涙する幸せな時間をすごすことだってできた。
このケータイに誰にも見られることなく残った手紙と引き替えに、私は私の人生をこれからもずっと歩んでいく。