周りにはいつも大人ばかり。同世代の子供と話すのが苦手だった
生まれたその日から今日に至るまで、私はずっとひとりっ子だ。
小さいころから親戚づきあいが多く、兄弟も姉妹もいない私の周りには気付けば大人ばかりがいた。そのためか、自分と同じ世代の子供たちと遊んだり関わったりすることがとても苦手だった。
なにを話していいのかも、どういうことが流行っているのかも、全然知らなかった。
特にわからないのは歌番組だった。それ以外はバラエティ番組もドラマもアニメも、見られる番組はすべて親の趣味に合うものだけではあったけど、どうにか話せるぐらいには知識はあった。ゲームの話も少しぐらいならば。
しかしそれはそれ。知識があったとはいっても、ろくに話せる友達はいなかった。友達の作り方なんてものはわからなかったのだ。
親や周りの大人たちからは、友達なんて自然と出来るなんて言われていたけれど、大人以外と接する機会が少なかったせいか、自然となんてできなかった。
それに、田舎というほどじゃない中途半端な田舎在住の私の親戚は、その地域ではちょっとした地主だった。まあ、なんというかそれも相まって、それなりにあの家の子と関わるのはやめなさいだとか、あのあたりに住んでいる子とは遊んだ駄目だとか、そういうことも言われて育ってきたわけで。
そりゃ余計に友達なんて出来るわけがない。
流行っているものを知らない。それだけでクラスの序列ができる
だから知っている歌なんて祖母が聞いている演歌だったり、見てもいいと許可を得られたアニメの主題歌か、教育番組で流れている曲ぐらいしかなかった。
子供の頃の私の知っている曲の温度差といったら、これはもう風邪を引いてしまう感じ。
そんなわけで、私は流行りの音楽が特にわからなかったわけだけれども、小学生の子供には結構な苦痛があったし、結果的にはそれがきっかけで馬鹿にされるぐらいは確かにあった。
流行っているものを知らないという、たったそれだけのことで、クラス内の序列が決まったりもする。
幸いなことにその頃は勉強もできていて、先生にも褒められるようないわゆるまじめないい子でいたことや、小学生女子ながら、男子よりも身長が高かったこともあって、威圧感でもあったのだろう。いじめと呼ばれるものには発展しなかった。
突然、怒りで目の前が真っ赤に。「わかんない話しないで!」
とはいっても、周りは知っているのに自分だけ知らない情報があるというのは、子供のうちには恥ずかしくてたまらなくて、なんとなくみじめさがあったのだろう。
そんなみじめな、マイナスな感情が突然爆発して、放課後、夕焼けが差し込んでくる教室の中で自慢げに流行りの歌のことを語るクラスメイトに向かって、唐突に「わかんない話しないで!」と怒ったのだ。私が。
今思えば、それは教室に夕焼けが差し込んでいたのではなくて、怒りで目の前が真っ赤になったように感じただけなのかもしれない。
突然沸いた私の怒りにクラスメイトも驚いていたし、怒ってしまった私自身も驚いた。
こうなると喧嘩になるのも早い。驚いた気持ちが一気に怒りに変わって、本当に数分の間だけ喧嘩に発展した。
クラスメイトは油性ペンを持ち出して、そのキャップを取るとこちらにペン先を確かに向けてきていた。そしてそれを私が着ていた服に振りかざしたのだ。
体が大きかった私は格好の的でしかなく、当たり判定が出る場所があまりにも大きすぎた。私はそれを避けきることが出来なくて、ペン先がべったりと服に触れてしまう。
当然だが、服には振りかざした通りの綺麗な線が入ってしまい、ちょうど着ていた服が薄いピンク色だったこともあって、黒い油性ペンの色が目立つという、最悪の仕上がりとなった。
しかし、クラスメイトはそんなことになるとは思っていなかったらしく、ただ慌てて油性ペンをあった場所に戻して、逃げるようにランドセルを背負ってあっという間に帰ってしまった。謝ってもらうことも、喧嘩の原因になった私が謝る時間もくれずに。
遠ざかっていくクラスメイトの姿を見ながら、私は「お気に入りの服じゃなくてよかった」と思っていた。
喧嘩にはなったけれど、言いたいことを言えたことを後悔はしていなかった。