末枯野美しき晩秋の候、ますますご健勝のことと存じます。

あなたに別れを告げたのは、ちょうど2年前の今頃だったと記憶しています。
あれから2年。この間、色々なことがありました。
当時は、私の貴重な2年間を返してほしい、と恨みを持っていました。
2年の時が昇華してくれたのでしょうか、今でこそ良き思い出となっています。
あなたとの出会いも、あなたと過ごした2年間も、無駄ではなかった、と。

あなたから連絡が来たときだけ、会うことができただなんて

あなたと出会ったのは、4年前のことでした。
慣れない環境に狼狽していた私に、他の先輩方はスパルタ教育だったのに対し、あなただけが優しく接してくれました。
そんなあなたに私は徐々に惹かれていき、あなたの特別な存在になりたいと思うようになったのでした。
今思えば、きっと右も左も分からぬ新人を食い物にするための、あなたの常套手段だったのでしょうね。

初めてあなたと食事に行ったときも、あなたの家に入ったときも、他の人たちと一緒でした。とても紳士的でしたね。
だから、あなたに対して心を開くのにも、そんなに時間はかかりませんでした。
その後1対1でのデートに誘われたときも、家に招かれたときも、あなたなら、と心を許したのでした。

あなたは忙しさを言い訳に、返事を2日以上寄越さないことが大半でした。私からデートに誘っても、はぐらかされました。
あなたから連絡が来たときだけ、あなたに会うことができただなんて、明らかに都合のいい女ですよね。それでも、私は嬉しかったです。あなたに会えたから。

それでも、あなたの言葉を信じていた。信じていたかった

考えてみたら、なし崩し的に親密な関係となったのでした。
ロマンチストな部分がある私は、正直納得がいきませんでした。
でも当時は「大人のお付き合いはこんなものなんだろう」と、自分を無理やり納得させていたんです。
本当は、あなたの気持ちを尋ねたかった。何故返事をくれないのか、何故あなたが連絡をくれたときにしかあなたに会えないのか、問い詰めたかった。
でも、我慢していました。
あなたに、厄介な奴だと思われたくなかったから。あなたに、面倒くさいから会いたくないと思われたくなかったから。
「あなたに嫌われたくない」その一心で、私は我慢していたんです。

あなたと過ごして1年が経った頃、「あなたが他の後輩女性と関係を持っている」という噂を聞きました。
そのときばかりは流石に我慢ならず、あなたに詰め寄りました。
「私は、あなたにとってどんな存在なのか」と。
あなたは「大切な存在だ」「真剣に考えている」と答えてくれましたね。その言葉だけで、私は満足してしまいました。

その後のあなたの態度は全く変わらなかったし、その後も他の後輩女性との噂を何回も聞きました。それでも、あなたの言葉を信じていたんです。
あなたのことを、あなたのあの時の言葉を、信じていたかったんです。

私は、あなたに大切にされていない。やっと気が付いた

そんななか迎えた、私の誕生日。
あなたからは、お祝いどころか、連絡さえありませんでしたね。誕生日を1週間以上過ぎてから、いつも通りあなたの都合で連絡がきました。もちろん、誕生日のことには一言も触れられていませんでした。

あなたと会った時も、お祝いの気配もありませんでした。
でも、私はそのことを言い出すことができず、落胆したまま帰りました。その帰り道、やっと気が付きました。私は、あなたに大切にされていない、と。
あなたは、私のことを何とも思っていない、と。

こうして2年前、あなたに別れを告げ、連絡先をブロックしました。
厳密に言うと、他のメッセージアプリでは繋がっていたけれど、あなたからは一言も連絡がありませんでしたね。悲しかったけれど、あなたから連絡が来ることはないだろうと薄々感じていましたので、お蔭であなたのことをすっぱり諦めることができました。

あなたのおかげで、「相手と同じくらい自分を大切にする」と知れた

つい最近、あなたから連絡が来ましたね。
2年前と同じ、非通知での電話でした。2年前と変わらず、親しげに呼びかけてきましたね。名乗りはしなかったけれど、甘えるようなやや掠れた特徴的な声は、紛れもないあなたの声でした。

2年前当時の私だったら、きっと嬉しく思ったでしょう。でも今の私は、もう違います。
今の私は、自分の思いを伝えることができる尊さを、自分を大切に思ってくれる人がいる幸せを、知っています。

だから、声の主があなただと分かっていても「どちら様ですか?」と冷たく言い放つことができました。あなたは、何も言わずに電話を切りましたね。
その時、これで本当にあなたとの関係は終わったことを確信しました。

あなたと出会ったことで、あなたと過ごしたことで、「相手を大切にすることと同じくらい自分を大切にする」ことを知りました。お蔭様で、私はいま幸せです。
ありがとうございました。
どうかお元気で、さようなら。永遠に。

秋冷の折、くれぐれもご自愛ください。