初めての大失恋をした、大学4年の夏。
2年間交際した彼は、高校からの同級生であり、私の初めての恋人であり、初めて「手放したくない」という感情を教えてくれた人だった。

別れを告げられた私は、人間の形をした抜け殻のように枯れていった

「別れよう」という彼の言葉を聞くのはこれで何回目だったろうか。
そんなことを考えながら「わかった」と強がって言ってみる。このやり取りにはもう慣れていた。どうせ少し時間が経てば前言撤回するだろう……。
……しかし今回は何かが違う。
いつもの「やっぱり無理だ。やり直そう」という焦った彼の言葉が、何日経っても聞こえなかった。

私の短気な性格と彼への甘えが別れの引き金となった。
後悔してもしきれないくらいに後悔した。「あぁ、あの時、こうしてなければ……こうなるなら、あの時、強がらなければ……」と変えようのない後悔が積もる。

私は彼が大好きだった。
その気持ちは振られてからも消化できずに、ぐるぐると私の体を巡っていた。愛情なのか執着なのか依存なのかは、わからなかった。ただ、振られてからも彼のことが好きだった。

別れを告げられた私は、人間の形をした抜け殻のように枯れていった。
1日に1度も笑わない日々。食べ物が喉を通らない日々。気が緩むと涙がこぼれそうになる日々。時間が一向に解決してくれない日々。目を瞑ると一番思い出したくない人の笑顔が鮮明に思い浮かぶ。心が握りつぶされたようにズキズキと痛んだ。必死に他のことを考えてみても彼は消えてくれずに、眠るのを諦めた。

声を上げて笑うのは失恋してから初めてのこと。夢中で見漁った動画

ふと開いたSNSの関連動画は「復縁する方法」というタイトルで埋まっていた。
この動画たちからも、枯れた自分からも抜け出したい一心で、普段は見ることのないドッキリ動画をタップした。失恋してから勝手に遠ざけていた幸せそうなカップルの動画だった。

彼女が仕掛けたドッキリにまんまとハマる彼氏のリアクションがとてもリアルで、私は暗闇の中でケラケラと笑った。そして意図していないハプニングがこの動画に拍車をかけ、ゲラゲラと爆笑した。
声を上げて笑うのは、失恋してから初めてだった。お笑い番組を見ても滅多に笑わない私が、失恋中にこんなに笑っていることに自分でも驚きながら笑った。
なぜか心が落ち着き、もっと見たいという衝動から夢中でそのカップルの動画を見漁った。
気づいた頃はお昼時。知らずのうちに寝落ちしていたようだ。久しぶりの熟睡は私の心に開いた大きな穴をほんの少しだけ埋めてくれたような気がした。

その日以降、眠りにつく前に彼らの動画を見ることが日課になった。動画を見ている時だけは現実から目を背けて何も考えずにいられた。彼を思い出して心が乱れそうになった時や眠れない夜には必ず動画を見るようにした。
そうして動画たちは私の精神安定剤となっていった。

辛い夜を越えられたのはSNSのおかげ。一人寂しい時は頼ってもいい

なぜだろう。不思議なことに笑って心が安定しだしてから余裕がでてきた。食欲も徐々に回復して、別れた現実を少しずつ受け入れようと心が準備していた。
正直に言うと、まだ未練が残っていたが、未練と一緒に少しずつ前に進んでいこうと心に決めた。
そう思った矢先に、夢にまで見た展開が起こった。彼からの「会いたい」というメッセージ。嬉しさと驚きで心が飛び跳ねる。すぐに返信をし、今度は強がらないと自分に約束した。

久しぶりに会う彼は、大好きな頃のままで何一つ変わらない。会っていない時間を埋めるように、今までのことを話しながらドライブをした。そして別れ際に「もう一度、僕を信じてほしい」と真っすぐな目で言った彼に、キスで返事をした。
今では、彼と一緒にそのカップル動画を見て笑っている。そして動画を見る度に、「あんなに辛い日々もあったなぁ」と思い返す。あの日々を、あの辛い夜を越えられたのは、間違いなくSNSのおかげだ。

一人寂しい夜はSNSに頼ってもいい、そんな夜があってもいいんじゃないだろうか。