ある日突然、釣りが好きな父がエンジン付きボートを買ってきた。
いくらしたのか聞くと、「1ヶ月分の給料くらい」と気まずそうに答えた。驚いた母は「子供達の学費だって払わなきゃいけないのに……」と怒り、呆れてもいた。
しかし、何を思ったのか、数時間後には「買っちゃったものは仕方ない。せっかくなら思う存分楽しまないと」と切り替えていた。
さらにその週末には、父母2人でボート釣りに出かけて行った。子供ながらに、なんというか、平和な親だなと思った。
また、ある日突然、父は家庭用の鍋でコーヒー豆の焙煎をし始めた。30分以上かかってやっとコーヒーが飲める。「インスタントコーヒーでいいよ」と言う私と、それをにこにこしながら見守る母がいた。
今年、父は突然天国へ旅立った。釣りに限らず登山やキャンプと多趣味な父であった。
母は「色々なところへ連れて行ってくれて、たくさんの経験をさせてくれた。私1人じゃ何もできない」と言う。たしかに、父がいたからこそできた経験がたくさんある。
しかし、そんな父を支え、一緒になって楽しめる母がいたからこそ、父の遊び心や創造力が掻き立てられたんだと私は思う。
父がいて、母がいたから、私たち家族にはこんなにも沢山の幸せな思い出がある。