「社会の役に立つ人になりなさい」。幼いころから父から言われた教訓だ。
父はその言葉通り、公務員として、町中を素早く移動する人々を裏で支える仕事をしていた。仕事に真摯で、社会のためになっている自分の仕事をいつも誇らしげに語っていた。
でも、仕事量が増えていくうちに、彼は休日でも会社に出勤し、彼のプライベートと体重はどんどん減っていった。
それでも、父は真面目に働き続け、人から信頼される立場に立ち、娘の私を自分が行きたくても行けなかった大学まで送り出してくれた。

そんな父は昨年定年を迎え、今は再任用の職についている。
現役の時のように前線で働けないことを少し寂しそうに話し、自分の好きなコロッケをほぼ毎日家族分買ってくるようになった。
テレビを見ている背中は小さく、少し不安げだった。

お父さん。自分を大切にすることも十分な社会貢献だよ。
だって、あなたがご機嫌でいることで家族に笑いが増えて、家族の温度がぐっとあがるのだから。それだけで家族が安心する場所に変わる。
これからは大きな「世間」という社会が望んでいることではなく、自分が望んでいることをしてほしい。それが一番近い「社会」が喜ぶことなんだと、私は心の中で願っている。
あなたがご機嫌でいることが、一番の社会貢献なんだと。
そんな言葉と一緒に、私は今日もコロッケを一緒にほおばる。