2018年、クリスマス前夜。
気の合わない同い年の彼女と最初で最後の待ち合わせ。
知り合ってから2年弱。お互い距離は詰めないようにしてきた。

生き方も性格も正反対の彼女とは、初日から合わないと感じた

私と彼女は脚本の学校で出会った。
学生時代、小説を書いていたが芽が出ず、社会人になってからも夢を捨てきれなかった私は仕事をしながら学んでいた。
10代から70代。
医者や公認会計士、大企業の重役。
狭いコミュニティの中で日常生活を普通に送っているだけでは知り合えない面白い人たちに出会えるその場所で、20代女子は比較的珍しかった。

条件だけ見れば仲よくなれそうなものだが、初日から合わないと肌で感じた。
多分それは向こうも同じだっただろう。
男嫌いでおひとりさまをエンジョイしているオタク気質の彼女と、好きになった人に服も週末の過ごし方も何でも合わせて生きてきた既婚者の私は、生き方も性格も正反対だった。
個性が動物園のようなクラスに所属していたので、毎週グループでランチを食べるぐらいには仲が良く、クリスマス会が開催された。

コロナ禍になってから宅飲みは問題視されてしまったけれど、授業に関係なく皆で待ち合わせをし、レンタルルームを借りて、おつまみや酒を持ち寄り、文学や映画の議論に好きなだけ花を咲かせられる時間は今振り返っても格別だった。

クリスマス会当日は午前中、雨が降っていた。
王道の可愛いやお洒落を愛する私とは違い、彼女は個性的な傘を持ってきていた。
仕事をバリバリこなし陶芸や彫刻の習い事も掛け持ちしていた彼女は途中で帰った。
数時間後、彼女が傘を忘れていることに誰かが気づいた。

「あえて忘れ物」という恋愛テクニックみたいな展開で、再会の約束

初めて個人ラインが届いた。
申し訳ないけど、気に入っている傘だから届けて欲しいと。
彼女は転職し地元で母親と暮らすことが決まっていたから、その日で会うのは最後のはずだった。
年内の授業も終わっていた。
好きな男に尽くすことには悦びを感じるタイプだが、どうでもいい女にはつめたいのが私である。
わざわざ表参道までお金を払って、おかしな傘を届けるのは正直気が進まなかったが、断れる間柄でもない。
「また会いたいからあえて忘れ物をする」という使い古された恋愛テクニックみたいな展開で、再び会うことになった。

やりとりを重ねる中でディナーに誘われた。
じゃあお店探すよと申し出ていた。
洋服どうしよう。メイクは?髪は?
バッグもアクセサリーも迷っていた。
決めた時は面倒くさいと思っていたのに、いつの間にか会う日を指折り数えて待っていた。
いくつも候補を送った中で彼女がセレクトしたのはカロリーも値段も高いけれど、美味しいハンバーガーショップだった。
きちんとしているイメージだったから意外なチョイスだった。

barに梯子して終電ギリギリまで喋り尽くすほど、彼女は面白かった

会って早々「迷惑かけてごめん」と彼女はお洒落なお吸い物セットをくれた。
プレゼントがあまりに素敵だったのと大人な対応に、やっぱり頭のいい人だと思った。
イルミネーションが大好きな私と、ほとんど見に行かないという彼女で見たライトアップされたチャペルは、その年に見たイルミネーションの中で一番綺麗だった。
照れくさかったけれど、一緒に写真も撮った。
SNSを全くやっていない私は普段自撮りをしないせいか写りの納得がいかないことが多いけれど、一回でお気に入りの一枚が撮れた。
ぎこちない距離感と照れくさそうな二人の笑顔。
あの日の空気感がそのまま写真に映し出されていた。

仕事は好きだし、お給料は高いけど、上司のパワハラに耐えられなくて退職を決意したこと。
過去にトラウマがあるから 恋愛できないこと。
誰に対しても言いたいことを言えるのが羨ましいこと。
恋愛しない子やできない子を不幸だと思って生きてきたけれど、結婚して恋愛しないでも生きられる人の方が人生楽しいんじゃないかという考え方に変わったこと。
だから何をモチベーションにして頑張ればいいのか迷子になっていること。
学生時代からオタクっぽい子と関わらないようにして生きてきたけど、それは嫌いだったからじゃなく、好きなことを好きって明言できる子たちが羨ましかったからだって気づいたこと。

たまたま2人で見つけた隠れ家的barに梯子して、終電ギリギリまで喋って喋って喋り尽くした。
彼女は面白かった。
話しながら聞きながら知らなかった自分にも出会った。
あそこで飲んだカクテルは本当に美味しい一杯だった。

腹を割って話したから、彼女が好きで尊敬してるとやっと認められた

彼女に憧れとリスペクトがずっとあった。
でもあまりに自分と違い過ぎてそれを素直に認められなかった。
あの夜、腹を割って話したから、彼女のことが好きで尊敬してると私はやっと認められた。

あれから一度も連絡していない。
これから先会うこともきっとないのだろう。
それでも私は毎年クリスマスが近づく度に、彼女と過ごした3年前のクリスマス前夜を幸福な記憶として思い出す。
彼女にとってもクリスマスの気配が漂う街を歩きながら、楽しかったと振り返れる思い出になっていたらいいなと思う。