ホテルステイという言葉を知ったのは、大好きなユーチューバーさんが投稿した動画の内容がそのホテルステイ動画だったからである。
ホテルステイとは、近場のホテルで過ごすという意味であり、このコロナ禍で注目が集まった一つのスタイルである。

ホテルステイに憧れるけど、近場で宿泊は現実的でどこか受け付けない

私もその言葉と意味を知ったのは昨年のことだ。私の好きなユーチューバーさんは仕事や日常に行き詰まったり、気分転換をしたり自分にご褒美をあげたくなったとき、ホテルステイをしていた。
私の中でホテル利用とは、どこか遠くの観光地に行ったときに利用することがほとんどであり、近場でホテルに泊まるなんて現実的でどこか受け付けない部分があった。
しかし、そのユーチューバーさんの過ごし方はホテルという空間を存分に楽しみ、時間を余すことなく使い、自分の心と身体を癒していた。その動画を見たとき「なんて贅沢で素敵な過ごし方だろう」と思った。
でもその時はそれで自分もやってみようとか、こうなりたいなんていう感情は沸かなかった。ただそういう過ごし方、使い方がある、それだけのことで通り過ぎた。

それから少し経った頃、そのユーチューバーさんがまたホテルステイの動画をあげた。
あれから月日は流れ私は転職し、そのストレスから不眠症に悩まされ、睡眠導入剤がなければ眠れない身体になってしまっていた。
今回投稿された動画は、自分へのご褒美ということで宿泊を決めたという経緯からホテルステイの様子が収められていた。

動画を見終わった瞬間、どうしようもなくホテルステイしたくなり予約

動画を見終わったあと、私はその手で気がつけば近場のホテルを予約していた。
インスタグラムで前々から興味があった市内にあるホテル。休みの前に日に仕事が終わってすぐチェックインできるように時間を合わせ、朝食もつけて。
なぜ急に思い立ったのか分からない。でもなぜかその動画を見終わった瞬間どうしようもなく自分もホテルステイがしたいと思った。
転職しそのストレスから不眠症、そして急性胃腸炎にもたまになったりしていた。なんのために転職したのか、なんのために日々通勤し8時間も労働しているのか分からなくなっていたのかもしれない。だから少しでも非日常を味わいたかった。

宿泊日当日、目にもとまらぬ速さで定時に退勤した私は一度自宅に戻り、一泊分の荷造りをせっせとし、普段言わない「行ってきます」なんて言葉を一人暮らしの誰もいない部屋に向かって放ち、ドアを開けてホテルへ向かった。
ホテルには予定チェックイン時間より少し早く着いたが、平日の夜にも関わらずフロントには列ができていた。中には自分と同じように一人で宿泊している女性も何人か見受けられた。
このホテルの売りは、8000冊のマンガが宿泊中は読み放題であり、部屋には10冊まで持ち込み可能であるところである。マンガが大好きな私は、入り口からエレベーター前まで並べられたマンガたちに目を輝かせた。最高の空間と心の中で叫んだ。

誰にも邪魔されずにひたすらマンガを読み漁り、眠りにつく最高の夜

今回宿泊した部屋は、スタンダードルームであるがダブルベッドを独り占めして眠れるという幸せな部屋だった。マットレスも某有名寝具メーカーのもので、少し横になっただけで眠れそうな気になった。
このホテルを選んだのにはもう一つ理由がある。不眠症になってからしばらくは薬に頼っていた私だったが、あるときから寝る前に読書をするようになった、そうすると不思議とスッと眠れるようになり、睡眠薬の服用回数は大幅に減っていた。
マンガは本とは違うが、自分の中では本もマンガも同じ部類の扱いだったので、普段読まないマンガや読みかけのものを読んで眠れればという気持ちもあった。

部屋に規定内の10冊のマンガを持ち込み、合間に食事、入浴とはさみながらひたすらにマンガを読み漁った。誰にも邪魔されない最高の空間、嫌なことも辛いことも今なら考えなくていい最高の夜だと思った。
次第に睡魔が襲ってきだしたのでマンガを置き、広々としたダブルベットに横になり眠りに落ちる準備をはじめた。

あの時教えてもらった、旅行と旅の違いを、やっと身をもって分かった

瞼を閉じた私に、昨年の一人旅に行った際たまたま乗った人力車のお兄さんの言葉が響いた。
「旅と旅行の違いってなんだか分かりますか?」
この質問になんと答えたかは覚えていないが、おそらく変なことは言っていそうな気がする。お兄さんの答えはこうだった。
「旅行はその土地で非日常を味わうことなんですよ。旅は旅館やホテルで日常と同じように過ごすことなんです」

その時、実はあまりピンときていなかった。私にとってはどちらも「旅行」だったから。
でも今、ホテルステイでのんびり羽を伸ばしている私はおそらく旅をしているのだと思う。
普段買い物によく来る街のホテルの一室でマンガを読み、過ごしたいように過ごす。
最高の旅であり、最高の日常を今、私は過ごしているのだと噛みしめた。
あの時のお兄さんの質問に今なら意味を噛みしめて答えられそうだと思った。やっと意味が分かりましたと伝えたくなった。

私が旅にでる理由、それはきっと最高の日常を過ごすため、非日常も素敵だけれど何気ないことが一番の最高なんだと私は思う。そんな最高の日常を何度も体験するために、私はきっと死ぬまで旅をするだろうと思う。