この私が浪費家? 夫の言葉の衝撃から、その理由を考えた

「うちは妻のほうが浪費家でさ。まあ、咎めないよ。その分俺が節約すればいい話だから」
頭のてっぺんから雷に撃たれたような衝撃だった。
電話で友人と楽しくお喋りする夫の口から発せられた「妻」が、まさか自分のことだとは到底思えず、隠れて別な家庭を持っているのかとさえ思ってしまった。
この私が、浪費家?
嘘でしょ?
ちょうど先週、職場で冬のボーナスの話になり、それぞれの家庭でのお金の管理について話していた。
「うちは夫が浪費家だからね。その分私が節約してなんとか頑張ってるよ」
と弁当箱をつつきながらぼやいていたのは、この私だ。
一体どういうことだろう。
お互い、外面を気にして身内を卑下するようなことはしないタイプだ。むしろたまに親しい友人から「あなた達のろけすぎ」と笑われてしまうほどだ。
夫が私を、私が夫を、浪費家だと信じて疑わない理由は、一体どこにあるのだろう。

お金の話題はデリケートだ。
迂闊にぶつけて相手に誤解を与えたり傷つけてしまうリスクは出来る限り避けたい。
まずは自分側の思考を整理することにした。
私が夫を浪費家だと思っている理由と、私が自分を倹約家だと思っている理由を挙げてみよう。
夫は仕事が休みだと遠くへ外出して高級な宿や高級な飲食店で贅沢を楽しむことが大好きだ。長期休暇はハワイへ行きたがるし、海外旅行をとてもカジュアルに考えている。まとまった大きなお金をガツンと一気に使うその様は、間違いなく浪費家にしか見えない。
一方私は、休日はどこにも遠出しなくて平気だ。心地よいアロマと音楽に包まれた暖かな我が家で、美味しいバターをたっぷり塗ったトーストと旬の果物を食べながらとっておきの珈琲をじっくり味わう日々さえあれば十分に身も心も満たされるから、わざわざ外で派手な出費をせずともストレスなく生きていける。

大切にしているものが正反対。思い切って夫にぶつけてみた

自分側の思考を整理してみると、おのずと夫が私を浪費家だと思っている理由と自身を節約家だと自負している理由が浮かんできた。
夫は水光熱費を気にしてやたらすぐにアロマを消し音楽を止め暖房のスイッチを切る。見切り品のマーガリン入りパンを食べ、果物には一切手をつけず、御歳暮で貰った古い珈琲を水で薄めてちびちびと飲んでいる。

なるほど、大切にしているものが、まるで正反対だ。
こんなにも正反対の二人が、この先何年も何十年も一緒に結婚生活を続けていけるのだろうか。
急に大きな不安が押し寄せてきた。
お金の価値観は、簡単に目をつぶれる問題ではない。
私は、気づいてはいけない問題に今さら気づいてしまったのではないだろうか。
途方にくれた私は、しばらく眠れない夜が続いた。

この悩ましい問題が、果たしてただの私の妄想なのか、結婚生活5年目に露呈した衝撃の事実なのか、悶々とし続けることに疲れた私は、いよいよ夫に確かめることにした。
「せっかくいい焼肉屋だったんだから、もっと頼めばよかったのに」
薄暗い夜道で手を繋ぎ、ミント味のガムを噛みながらゆっくり歩いていた時、(今だ)と思いついた。
「ちょっと仮説を聞いてくれますか」
首をかしげる彼を横目に、緊張しながら一気に吐き出す。
「私は、日常にお金をかけて豊かにすることで、非日常を質素にできると考えている。あなたは、日常を質素にすることで、非日常にお金をかけて豊かにできると考えている。
私が(何故、非日常にこんなにもお金をかけているのだろう)と感じる時、あなたは(何故、日常にこんなにもお金をかけているのだろう)と感じている。これ、合ってる?」

「力を合わせれば豊かに」。彼の言葉に爽やかな風が吹いた

彼の足が止まった。
怒らせてしまっただろうか。
面倒くさい女だと思われてしまっただろうか。
ごめん、やっぱり嘘!さっきのお肉美味しかったね!
そう明るく言って仕切り直そうと息を吸った瞬間、彼がおなかを抱えて大声で笑い始めた。
「薄々気付いてたけど、改めて言葉にすると、笑っちゃうくらい正反対だね。二人の力を合わせれば、日常も非日常も豊かになるってわけか」
爽やかな風が吹いたのは、ミントのせいだけじゃない。
二人の力を合わせれば、日常も非日常も豊かになる
なんと素敵な発想だろう。
そうか、浪費だと感じる所ではなく、倹約だと感じる所をお互いに見つめて学び合えばいいのか。
私は、外出先での早割予約手配やクーポン券とポイントカードの管理を積極的に担当するようになった。
夫は、節水蛇口や節電タイプの家電を調べて設置してくれた。

たかがお金、されどお金。
お金に対する価値観は、そのままその人の価値観にも繋がっている。
何に対してどれほどの価値を見いだしているのか、反対に価値を感じられないものは何なのか。
大切なのは、自分の価値観の正しさを証明することではない。他者の価値観にひれ伏すことでもない。勝ち負けではなく、尊重し合うこと。良いところを真似し、反省点を改善し、手を取り合ってさらなる高みを目指すこと。
日常を豊かに、非日常も豊かに。
お金とうまく付き合いながら、お互いの価値観とうまく付き合いながら、手を取り合って豊かな生活を作り上げていこう。