お金を使うことを「経済を回すこと」と言っている。そのせいか、毎日貧乏である。
貯金額?知らない。

12月のクレカ引き落とし額に愕然。絶対に不正利用をされている…

好きな作家の本を無限に買った。いくら使ったか覚えていない。
「推し」のサインをもらうためにBlu-ray Boxを3セット買った。サインを買ってBlu-rayがついてくるなんてお得である。
ミュージカルを見るためにサブスクに登録した。月で割ると安くなる、という理由で年間契約をした。最高だ。

「いつか破産するよ」
友人に言われたが知らんこっちゃない。人間、死ぬときは死ぬし、破産するときは破産するのである。

そんな日々をのほほんと楽しんでいた私だが、12月のクレジット引き落とし額を見て愕然とした。自分の想定していた額の倍以上が書かれている。これでは、私が内田百閒になって督促状に悩まされるのも時間の問題である。そんなことあってたまるか。

いやこれ、絶対、不正利用されているでしょ。
あわ、あわわとみっともなく慌てふためく私に、
「どうかしました?」
と同僚が声をかけてくれた。持つべきものは優しい同僚である。
とんでもない額の引き落としをされている、これは不正利用かもしれない、と話すと、
「あ、この間、私の友人が不正利用されたんですよ!」
と、恐ろしい話をしてくれた。さっきまでは半ば冗談のつもりで言ったのだ。しかしこれが本当となると話は別だ。
「ど、ど、どうしましょう」
「利用明細見てみたらどうですか」
彼女の言うとおりである。昼休み、私はそぅっと利用明細を開いた。

どれも記憶にある明細ばかり。見終わった私は呆然と天を仰いだ

Amazon。うん、買った覚えがある。
楽天市場○○店。これも記憶にある。
ガソリンスダンド。これはしょうがないお金だ。そういえばまたガソリン代が上がった。ひどい。
○○ショップ。これは推しのために払ったお布施だ。寄付代として減税対象にならないのか。
JR東日本。これは旅行の交通費だ。これで推しに会えたんだから実質無料である。引き落としもしないでくれ。
××ショップ。これは記憶にない。ということは!……いや、この金額、多分旅行で食べたご飯代だ。

見れば見るほど、記憶にあるものばかり。
最初は笑いながら眺めていた。しかし次第に頭が痛くなってきた。

全て見終わった私は、呆然と天を仰いだ。
全部、私が私のために使ったお金である。

「どうでした?」
昼休み明け、先ほど話した同僚に声をかけられた。力なく笑い返すと、「察しました」と言わんばかりに慈愛の笑みを浮かべられた。

「ってことがあったんだよね」
12月の事件について友人に語ると、半笑いで聞いていた友人はカップに残っていた紅茶を飲み干した。
「まあ、良かったんじゃない」
「何が!」

「それだけ幸せになったってことじゃん」。同僚の言葉で決まった覚悟

こいつ、私の話聞いていたのか! 強く言い返せば、「だってさ」と言葉を紡がれ、私は口をつぐんだ。
「それだけ幸せになったってことじゃん」
目から鱗が落ちたようだった。口をぽかんと開けていると、友人は続けて言った。
「だってすだれの『ソレ』、無駄遣いじゃないでしょ」
私が使ったものを一つずつ思い出す。
例えば、スマートウォッチ。ものすごく便利で常に左腕につけている。
例えば、お菓子。おいしいチョコレートだったなあ。家族も喜んでいた。
例えば、コンサートのチケット。このコンサートのために、ここ数か月頑張ったといっても過言ではない。
「……確かに」
「ね? ならいいじゃん。ここ最近のすだれ、楽しそうだったよ」
「まあね」

そして私はあることに気がついた。
お金を使えば、経済も回って、なおかつ私も楽しいじゃないか!
「ありがとう、友よ」
私は友人の手をぎゅっと握った。

「メロス?」
「いや、そうだけど、違う。あなたのおかげで覚悟が決まった!」
「何、突然」
「私が幸せになって、世界も幸せになるように、夏のコンサート回る!」
「ほどほどにね」
苦笑され、私は全力で笑い返した。