私は、日本のものづくり……いわゆる「カワイイ伝統工芸」に関心を持っている。
古い、高級なイメージとは違う、モダンなデザインの工芸品のことだ。

関心を持つようになったきっかけは、皮革の伝統工芸「文庫革」。以前、あるお店のショーケースでみた、有名人とコラボした財布との出会いだった。
白地の革にカラフルな彩色が施された、ポップな宇宙の柄。
説明書きによれば、伝統的な技術を使っているという。前から革製品に興味はあったが、こんなものもあるのだと印象に残った。

金はないが時間だけがありあまる日々、思い切った買い物をした

コロナ禍となってはじめての初夏。勤務先が長らく休業し、自宅待機していた。お金はないが、時間だけがありあまる日々。

ふと思い出して、「文庫革」とネットで検索した。出てきたのは、90年以上の歴史を持つお店のホームページ。かつてみた宇宙柄の財布が載っていた。
宇宙柄の他にもたくさんの柄があった。創業時から受け継がれてきた柄。季節限定の柄。人気のある今どきな感じの柄……。
実店舗の休業の影響で職人さんの仕事が減って、最近までクラウドファンディングをやっていたようだ。

ホームページをみているうちに、なにか欲しくなった。
悩みに悩んだ挙句、色とりどりのハートや星で彩られた柄の、小さな財布を購入することにした。
給与はいつも以上に少ない。常にぎりぎりで生活しているなか、思い切った買い物だった。
しかし、私はワクワクしていた。ネットで注文したので実際どんなものなのかわからない。写真をみて、どんな触り心地なんだろう、どれほど綺麗なんだろうと想像して楽しんだ。

「カワイイ伝統工芸」は日々心を潤し、金額以上の価値がある

数日後、実物が届いた。
クリーム色に近い白の牛革。漆が使われており、独特の風合いを感じる。型押しされ、一筆一筆、色鮮やかに彩色されたハートや星が、ぷっくりつやつやと輝いている。触り心地がいい。昔ながらの製法でつくられたその財布は、すぐに私を魅了した。
我ながら、いい買い物をしたと思う。
財布をおろす日は、晴れた日を選んだ。雨で濡らしたくなかったから。汚したくなくて、しばらく小銭をいれるのをためらったほどだ。
それから約2年、ほぼ毎日使っていても、色彩は衰えない。おそるおそる持っていたが、いまではすっかり手に馴染んでいる。
その後、キーケースも文庫革のものを買った。赤いイチゴの柄だ。こちらも毎日、暮らしに寄り添ってくれている。

基本的に私はケチだ。
こんな状況だし、フリーターだし、お金はないし。
ほしいもの、行きたい場所を我慢することが増えた。

けれど毎日使うものは、いいものを長く、大切に使いたい。
心ときめくデザインであってほしい。
そんな考え方に、「カワイイ伝統工芸」はぴったり当てはまったのだと思う。
日々使うもので心が潤う。それには金額以上の価値がある。

日々を彩る伝統工芸を買えるように、転職を企てている

ただ、お金がないのに変わりはない。なんなら財布を買ったときよりも減っている。
「カワイイ伝統工芸」にもっと触れて、手元に置いて、微力ながら日本のものづくりを支えたい。

そんなわけで、年内に、というか30歳になる前には転職したいと企てているところだ。
全然目処は立ってないけど、心を潤すためにも、稼げるように努力はしたい。

今日も私は、文庫革のキーケースから鍵を取り出す。
文庫革の財布で買い物をする。
大富豪にはならなくていいが、ささやかな日々を彩る程度にはお金がほしい。
私と「お金」は、そんな距離感。