高校3年生の頃、確か将来の目標か何かを書いて提出したところ、偶然新聞に掲載してもらうことになった。当時の私はホテルマンに憧れを持っていて、その憧れの気持ちを書いたと思う。

その新聞を読んだホテルマンの方がその感想をわざわざ送ってくださり、その文も掲載されて、当時授業で先生が「すごいことだぞ」と私に言った。もちろん私もすごいと思ったし、何よりやりがいがでた。高校卒業後、私はホテルに住み込みで働きながらホテル科の専門学校に入学した。

ホテルの仕事は休む暇もなく動き回り、内容も多岐に渡る

ホテルでの仕事は、休む暇もないほど動き回っていた。お客様をお出迎えし、会場にご案内する。ホテル内にはたくさんの会場があり、どこで何の会合があるのかを事前に把握しなくてはならなかった。
お客様に会合名を聞いてもどこの会場かわからず戸惑っていると、先輩から「〇〇の会場です」と耳元のインカムが鳴る。これは冷や汗をかくので必ず避けなくてはならなかった。そのほかに帰りのタクシー、バスの手配など仕事内容は多岐に渡った。
様々な仕事の中でも、披露宴スタッフを経験することができたことは本当に良かったと今でも思う。披露宴スタッフとは、列席されたご友人、ご親族様にお料理を提供するスタッフのことだ。
披露宴は尺が決められており、何時までに食後のケーキとコーヒーを出さなければいけない
と決まっているため、煌びやかな表舞台と打って変わってバックヤードはみんながバタバタと行き交っている。
自分が担当する卓も決まっているため、遅れをとると他のスタッフに気を使わせてしまう。始めてすぐの頃、他のスタッフの仕事ぶりを見て「こんなの無理に決まっている」と思った。

ついに披露宴スタッフデビューの日。シャンパンを持つ手は震えていた

思っていてもやらなくてはならないのが仕事というもので、披露宴スタッフデビューした日、乾杯前にシャンパンを各グラスに注ぐ場面がある。スタッフは片手でシャンパンのボトルを持つのだが、慣れていない私は緊張とボトルの重みで手が震えていた。
すると、それをみた列席者の男性が「お姉さん、手プルプルしてるよ?」と私に言った。
「すみません、実は今日デビューなんです」
と素直に伝えると、
「おお、そうなんだ、ならバッチリだよ、上出来だ」
思いがけない言葉に私は驚いた。一日不器用ながらも終え、その男性含め他の列席者の方にも「何事も経験だからね、頑張ってね」と言っていただけた。

慣れてくると自然と仕事全体を見渡すことができるようになり、以前よりも楽しんで仕事ができるようになった。それから言葉遣い、姿勢、立ち居振る舞い、全て仕事をしながら先輩に教わった。
寮での暮らしに反抗期の私が喜んだのは最初だけでその後寂しさと帰りたさ、やめたい気持ちに何度も泣いた。その度に財布にしまってあった切り取った記事を何度も読み返して自分を鼓舞した。

高校生の頃描いていたホテルマンに、自分はなれたのだろうか

2年が経ち、私は無事に卒業した。卒業してから様々な仕事に就いたが、どの仕事に就いてもホテルで学んだお客様対応の仕方、話し方、考え方全て今も生きている。
他のホテルで仲居の仕事をした際も、職場の方やお客様に「姿勢がいいわね」と褒めていただいた。その時、いつも先輩を思い出す。「姿勢が悪い。もっと胸はって歩いて」と何度も言われた結果がこうして自分に染み付いていると思うと、先輩には感謝でしかない。
今年、あの頃の先輩と同じ年になる。私は今も変わらず胸を張って歩いていると伝えたい。

高校生の頃描いていたホテルマンに自分はなれたのだろうか。いつの間にか財布から記事は無くなってしまったが、今もこうして大切な記憶であることは変わりない。
あの頃、応援してくださったホテルマンの方にありがとうと言いたい。そして諦めなかった自分にもよく頑張ったと褒めたい。